ドイツで「野菜の王」「食べる象牙」「白い黄金」という春の味覚は?
ドイツだけでなく、その隣国であり、筆者が住むオランダでも、「春の味覚といえば?」と聞かれたら、答えは一択ではないだろうか。だいたいオランダなんかは、スーパーに並ぶ商品は一年を通してあまりかわり映えがせず、日本と比較して「旬の野菜」を楽しむという感覚が希薄だ(まあこれに限らず、オランダは他国の人間からみて、基本的に食文化が「しょぼい」国なのだが…)。その中で例外的に季節を感じられるのがこの野菜。正解は「ホワイトアスパラガス」だ。
ドイツの場合は、4月頃から、夏至を過ぎた頃の6月24日の「聖ヨハネの日」までが旬とされ、問題文にあるように「野菜の王」「食べる象牙」「白い黄金」などと珍重されている(オランダは「聖ヨハネの日」はあまり祝わないので、旬の終わりは曖昧な印象)。茹でて、卵と溶かしバターなどから作るクリーム状の「オランデーズソース」をかける食べ方などがポピュラーだ。
ホワイトアスパラガスは、緑のアスパラガスと品種が違うわけではなく、異なるのは栽培方法だ。ホワイトアスパラガスは、発芽前に土をかけて日光を当てないようにし、茎の緑化を防ぎ、白く軟化させる。
ちなみに、アスパラガスには「オランダキジカクシ」という和名があるが(他に「西洋ウド」「マツバウド」などの和名もある)、日本へは18世紀にオランダから渡来し、当時は観賞用として育てられた。「キジカクシ」とは、成長すると雉を隠すほど葉が生い茂ることに由来するという。また、「アスパラガス」は、「新芽」などを意味するギリシア語の「アスパラゴス」が語源である。
なぜドイツやオランダで、ホワイトアスパラガスが春の味覚の代表という位置を占めるようになったのか、背景はよく分かっていないのだが、その味が広く親しまれるようになったのは20世紀になってからと、そこまで昔のことでは無いらしい。それ以前は、味よりも薬効が珍重されるものだったようだ。
ところで、今年ドイツは、コロナウイルスの感染拡大防止のために事実上の国境封鎖をしばらく続けていたのだが、4月になってから外国人農業労働者の入国制限を緩和した。これはホワイトアスパラガスの収穫の時期になり、深刻な人手不足になったことが背景にあるとされる。コロナウイルス対策に影響を与えるほど、ホワイトアスパラガスはドイツの農業・生活に重要な位置を占めている。
一般の市民にとっても、今年はコロナウイルス禍で無邪気に暖かい季節の到来を喜ぶことができなくなってしまったが、ホワイトアスパラガスが食卓に並ぶ時だけは、いつもの年と同じような気分で春をお祝いできるのかもしれない。
ジャンル | ことば・文学 |
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掲載日時 | 2020/5/14 16:00 |
『アメリカ横断ウルトラクイズ』に感化された最後ぐらいの世代。学生時代は競技クイズを熱心にやっていました。大学卒業後は憧れていたアメリカと日本を行ったり来たり。その後2012年に思い立って渡欧し、今はオランダ在住。ボタンは長年触っていませんが、海外移住後も作家という形でクイズに関わっています。家はあのスケベニンゲンの近く。
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