足の速い韋駄天が追いかけたものとは何?
足の速い人の異名といえば何を思い浮かべるだろうか。ボルト、ロードランナー、野人など、サッカー好きとしては野人を推したいところではあるが、多くの日本人は「韋駄天」が第一に来るのではないだろうか。
韋駄天は過日テーマにさせてもらった須弥山に住む神で、四天王・増長天の八代将軍に数えられる、つまりは部下である。なお、その四天王も帝釈天の部下だ。天部の神とはいえ、皆並列というわけではない。
韋駄天の名はサンスクリット語で「跳ぶ者」という意味の“skanda(スカンダ)”を音写したもので、よりこれに近い「塞建陀(そけんだ)」という別名も持つ。
元はバラモン教の軍神で、破壊と創造の神・シヴァか、火の神アグニの子とされていた。後に仏教へ取り入れられ、仏教の守護者となった。
さらに日本では仏教の枠を越え、神社でも祀られている。川崎市宮前区にある野川神明社は韋駄天を祀っており、江戸時代から韋駄天社とも呼ばれたと伝わる。わかりやすい話だが、競輪や陸上といった種目のアスリートに人気という。
知名度や人気の割に韋駄天のビジュアルといわれてもなかなかピンとこないと思われるが、基本は軍神らしく合掌した手の上に剣を乗せたものだ。このポーズとは異なるが、黄檗宗の総本山である宇治の萬福寺や、先の野川神明社の境内にも武器を持った韋駄天像が見られる。
この韋駄天のハイライトだが、やはりその足を活かした活躍の場面である。釈尊の没後、捷疾鬼(しょうしつき)と呼ばれる邪鬼が仏舎利(仏の骨)から歯を盗んで逃げてしまった。ここまでは『涅槃経(大般涅槃経)』という、釈尊が亡くなる直前の説法などをまとめたものに記載がある。俗説ともされるが、それを追いかけて取り返したのがこの韋駄天だという。
一言で追いかけて取り返したというが、捷疾鬼も非常に素早いとされ、逃げた先は以前もテーマにした須弥山である。須弥山の高さは八万由旬(八万四千由旬とも)、1由旬を前回同様約7kmの説で考えると、約56万kmの頂上まで一瞬のうちに駆け上がって捷疾鬼を捕まえたという。もはや俊足を超えてドラゴンボールさながらだ。
ところでこの捷疾鬼だが、夜叉や羅刹という名もあり、こちらのほうが遙かに有名だろう。仏教経典では様々な悪事をはたらいているものの、後に改心し、毘沙門天の部下となって仏典を守る鬼神となっている。
そして、韋駄天の見せ場はもうひとつある。それは釈尊のために方々を走り回って食材を集めたことだ。このことが「ご馳走」の由来となっており、そこからさらに感謝の言葉「ご馳走様」が生まれたのだという。
そのため、寺院において韋駄天は厨房に祀られることも多い。足の速さから盗難除けなどの御利益でも知られるが、厨房守護に関してはこのエピソードからである。
集めた食材の料理の仕方や腕前まではたどり着けなかったが、おそらく現代であれば時短レシピを大量に広めて主婦の人気者になれたに違いない。
ジャンル | ことば・文学 |
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掲載日時 | 2020/5/7 16:00 |
学習院大学文学部史学科卒
大正大学大学院仏教学研究科浄土学専攻修士課程修了
高校・大学は剣道部、前職は中学・高校の社会科教員。クイズ作家としてはクイズ研究会やサークル所属経験のない異色の経歴。クイズ番組は好きだったが、プレイヤーとしての経験はアーケードゲームのみ。
僧侶としても、仏教系大学に大学院のみ在籍という極少数派。
有限会社セブンワンダーズ入社後は僧侶とクイズ作家の兼業で活動。法話にもクイズ作成で得た知識や要素を取り入れ、独自性のあるものを展開しているほか、寺院での「仏教クイズ」も企画している。
好きなジャンルは仏教、世界史、サッカー。
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