「森」と「林」は、元々どちらも「○○」だった?
「森」と「林」。どちらも小学一年生で習う漢字だが、違いを説明すると奥が深い。
最初に言ってしまうが、広辞苑では「森:樹木が茂り立つ所」「林:樹木の群がり生えた所」と、違いがまるでない。共通語の辞書的な意味に限れば、両者の明確な違いはないのだ。
ところで、『日本言語地図(1966~74)』における全国的な方言調査で、両者はどのような質問項目になっているだろう?
森 「お宮の境内などに木が一カ所に集まってこんもりと生えている場所のことを何と言いますか。」
林 「木が一町歩も二町歩も生えている揚所のことを何と言いますか。そこへ行ってたきぎを拾ったりします。」
まず前提として、「あなたの方言で『森』は何と言いますか?」と聞くのは誤誘導になるので、こういうまどろっこしい言い方になるわけだが、
おもしろいことに、前者で「ハヤシ」もしくは後者で「モリ」と答えた人はほとんどいない。全国的に、使い分けに関して一定の共通認識があったようである。
ところで、「森」「林」いずれの項目にも頻出したもう一つの表現がある。それが「ヤマ」だ。周圏分布という分布の特徴から、両者はいずれも元々「ヤマ」と呼ばれていたと考えられる。
山は、各地に「御岳」と呼ばれるものがあるように、昔は信仰の対象だった。森も、広辞苑の第二義に「特に神社のある地の木立」とあり、『万葉集』には「神社」や「社」をモリと読む例もあるらしい。ヤマのうち、こうした信仰的意味合いを持つ木々の密集地が、のちに「モリ」と呼ばれるようになった。一説にモリの語源と言われる「盛り」は、「山」とかなり近いニュアンスだ。
一方、林の語源は「生やし」だ。地域によっては、植林したところを「ハヤシ」、自生しているところを「ヤマ」と使い分けてきた。現代では、「天然林」「人工林」という語があるようにこの区別は当てはまらないが、単一種の木が揃う「スギ林」などの表現を含め、何らかの人為を感じるものが多い。『万葉集』には「薪や用材を伐採するところ」の意のヤマも登場し、生活で利用するこれらが「ハヤシ」に置き換わってきたと考えられる。
森は「信仰」、林は「生活」と結びついている。すっきりしたようだが、例外も多いだろう。ただ、こういうときに迷い込むのは、「迷いの林」でなく「迷いの森」であってほしいわけだ。
ジャンル | ことば・文学 |
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掲載日時 | 2020/9/16 16:00 |
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