仏教用語では「非常に長い間」、現代は「面倒」、この言葉は何?
私はかれこれ2011年からクイズ作家として活動しているが、当然、採用される傾向なども自然とつかめてくるものだ。
その中で、かなりウケがいいという体感があるもののひとつは語源系である。日常で使う平易な言葉に意外な出典・由来があるというのは確かに面白いし、雑学感もあるので納得がいくところだ。
先の須弥山の話で出した「金輪際」のように仏教由来の言葉も数多く存在する。今回はそのうちのひとつについて触れていこうと思う。
タイトルにある通り、仏教用語と一般的な言葉で少々意味の違いが生じているが、このような意味合いを持つ言葉は「億劫」である。
後ろにつく「劫」だが、これはインドの時間単位のうち、もっとも長いものである“kalpa”の音写であり、一般的には永遠とイコールのようなものとされる。
経典の中にもたとえを用いて説明されているところがあり、『雑阿含経(ぞうあごんきょう)』には「四方上下がそれぞれ1由旬(複数回出ているが、7km説を想定)の巨大な鉄の城を芥子粒(およそ直径0.5mm程度)で満たし、それを100年ごとに1粒ずつ取り去っていき、全てなくなってもまだ1劫はつきない」とある。この粒の数は城の体積=容積と仮定して計算すると7,000,000mm÷0.5mm=14,000,000個、これが一辺なので、全体では1400万×1400万×1400万=2,744,000,000,000,000,000,000個(27垓4400京個)となり、100年に1度1粒を取り去るので、かかる年数は2744垓年、それでも1劫にはまだプラスアルファがあることとなる。
『大智度論』においては「一辺40里の石山を、天人が100年(3年とも)に一度だけ衣ですり、石山が削り尽くされてもまだ1劫に満たない」とされている。里に関しては中国と日本(日本では約4km)で違いがあり、さらに中国でも時代による変遷はあるが、仏教が伝来したとされる漢代頃の一説である400mくらいと仮定すると、この石山の一辺は1万6千mとなり、ウルル(周囲約10km・比高335m)を超える大きさとなる。天人の衣の掘削能力は不明だが、ひとすりするだけでは少なくとも目に見える変化はつけられないだろう。
1劫でこれなのに、億劫といったらさらにとてつもない年数になる、それは面倒にもなるというものだ。
かつて、テレビ番組『トリビアの泉』で「アフロヘアの仏像がある」というネタがあった。これの正式名称は「五劫思惟阿弥陀仏(ごこうしゆいあみだぶつ)」といい、京都の「くろ谷」こと金戒光明寺などで見られる。これはファッションでこのような頭にしているわけでなく、阿弥陀仏がまだ法蔵菩薩だった時代に、あらゆる衆生を救うためにはどうすればいいのかと5劫の間思案し続け、その結果、螺髪がこのような形状となったものとされる。これまでの劫の莫大さを考えるとこの程度の大きさでいいのかと思ってしまうところもあるかも知れないが、表現には限界もある。
また、ご存知の方もいると思うが、落語『寿限無』の一節「五劫のすりきれ」もここに由来する。
ちなみに、金戒光明寺ではお土産で「アフロ金平糖」が販売されており、寺公認の名称となっているようだ。パッケージにはカラフルな螺髪の阿弥陀仏が描かれている。
そして、五劫思惟阿弥陀仏をお参りする方の中には薄毛に悩む方もいるらしい。いきさつからして薄毛対策には全く関係がないのだが、このとんでもない期間の思惟の後に建てた「四十八願」の第4願において「設我得仏国中人天形色不同有好醜者不取正覚」とある。簡単に訳すと「たとえ私が仏になっても、私の国の皆の姿や色が同じでなく、美醜の差があるならば、私は決して仏になりません。」である。別に薄毛が醜いとは思わないのだが、存外御利益があるのかも知れない。
ジャンル | ことば・文学 |
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掲載日時 | 2020/9/1 16:00 |
学習院大学文学部史学科卒
大正大学大学院仏教学研究科浄土学専攻修士課程修了
高校・大学は剣道部、前職は中学・高校の社会科教員。クイズ作家としてはクイズ研究会やサークル所属経験のない異色の経歴。クイズ番組は好きだったが、プレイヤーとしての経験はアーケードゲームのみ。
僧侶としても、仏教系大学に大学院のみ在籍という極少数派。
有限会社セブンワンダーズ入社後は僧侶とクイズ作家の兼業で活動。法話にもクイズ作成で得た知識や要素を取り入れ、独自性のあるものを展開しているほか、寺院での「仏教クイズ」も企画している。
好きなジャンルは仏教、世界史、サッカー。
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