『散歩』の「散」って何のこと?
『散歩』の語源をご存じだろうか。「歩」はそのまま、歩くことを意味する。では「散」の意味は…?
この『散歩』という語、古代中国が起源の言葉なのだが、『散歩』の爽やかなイメージとは裏腹にその誕生にはかなり不健康な経緯があった。
遡ること1800年前、三国時代の中国・魏の国に何晏(かあん)という政治家がいた。
何晏は幼い頃、生母が魏国の王・曹操に妾として取り上げられたため曹操の養子として育てられた。最高権力者の養子として何不自由なく育てられ、詩才をはじめとした才能にも恵まれ、そして母譲りの美貌を誇っていた何晏は、並大抵ではないナルシストとして成長してしまった。
そのナルシストぶりは、毎日おしろいで化粧をしていたとか、自分の影の形にこだわり歩き方に気を付けたとか、常に鏡を持ち歩きのぞき込んでは自分の容姿にうっとりしたとか、友人に「自分は神に近しい存在だ」と嘯いていたとか、多くの記録が残っているほど。
ただ、妙なカリスマはあったようで、魏国のインフルエンサーとして彼の真似をする市井の人々がいたらしい。
そうして何晏が生み出した流行の一つに“散歩”がある。
もちろん、ナルシストな彼が行っていたことなのでただ歩くだけというわけではない。歩き回る前に「麻薬」を服用する、というのが“散歩”のはじまりなのだ。
何晏が使っていた麻薬は、「五石散」という五つの鉱物を調合した薬である。
そもそも五石散は滋養強壮の薬として誕生したが、服用すると副作用として幻覚が見えるものだったらしい。
何晏はその副作用に目をつけ、幻覚を楽しむためにこの薬を愛用したのである。
ただこの五石散、硫黄や石英などの鉱物由来で毒性がとても強い。服用した際に体が温まれば良いが、もし熱が体にこもったままならば中毒で死ぬとされていた。
この体が温まる作用、「散発」を促すために歩き回ったこと、それが”散歩”の語源なのである。
稀代の才人にして色男、何晏が何やら仙人修行と称して街中を徘徊しているらしい、と五石散は大いに広まり、以後400年以上先の唐の時代まで大流行、海を越え平安貴族にまで伝わったということだ。
ジャンル | ことば・文学 |
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掲載日時 | 2020/3/10 16:00 |
タグ | 漢字 |
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