清少納言曰く「坊主は○○なほうが良い」?
清少納言曰く「坊主は○○なほうが良い」?
日本三大随筆といえばわざわざ挙げるほどでもないだろうが、『枕草子』『徒然草』『方丈記』である。
後ろの2つは著者が出家者ということもあり、「無常観」が特色として挙げられている。諸行無常という言葉は説明も不要だろう。
一方、清少納言は女性であり、出家したという確固たる事実は確認されていない。しかし、かつてテレビ番組『トリビアの泉』で紹介された「清少納言は股間を見せて女性と証明したことがある」というネタがあったが、この出典となる『古事談』という説話集では「鬼形之法師」などと晩年の様子や外見について書かれている。
この『古事談』自体がゴシップ的な書物らしいので事の真偽については不明確だが、少なくとも清少納言が『枕草子』を著したであろう時点では出家していない。三大随筆の中では女性・在家者・「をかしの文学」など仲間はずれである。
しかし、彼女の生きた10世紀中頃から11世紀にかけては折しも末法思想ブームまっただ中。当然、仏教や僧侶についても触れているので、そこを少し見てみたい。
まず、『枕草子』において清少納言が仏教に関連することを記している箇所は随所に見られる。
たとえば、第百九十一・二段と百九十四段(段については様々なので、今回は全て能因本参照、一部は読みやすさを考慮して漢字に直すなどの変更を加えている)にはそれぞれこうある。
「寺は壺坂。笠置(かさぎ)。法輪(ほうりん)。霊山(りょうぜん)は釈迦仏の御住処なるがあはれなるなり。石山。粉河(こかわ)。志賀。」
「経は法華経さらなり。普賢(ふげん)十願。千手経。随求(ずいぐ)経。金剛般若。薬師経。仁王経の下巻。」
「仏は如意輪。千手、すべて六観音。薬師仏。釈迦仏。弥勒。地蔵。文殊。不動尊。普賢。」
これらを見ると、経典や仏に関する知識がそれなりにあることが推測されるとともに、当時流行の浄土思想へ安易に流れていないあたり、確固たる思想や信仰を持っていたところも見て取れる。
その流行に関しても知らないわけではなく、百五段を見ると
「『九品蓮台(くほんれんだい)の間には、下品(げぼん)といふとも』など書きてまいらせたれば…」
とあるのだが、これは主である藤原定子に「あなたはいつも人に2番目や3番目に思われたくはない、この人が一番と思われなければ嫌われたほうがマシといっているが、私との関係についてはどう思うか」という問いに対しての答えだ。
「極楽往生には上上品から下下品の9のランクがあり、もっとも下のものでも」つまり「定子様に思われるなら一番下でも」と返している。
これも経典の知識がなければできない返しだ。ちなみに定子はこれに対し「いつもの主張通り、一番でありたいと思えばいい」と返している。
清少納言自体、先のものをはじめとしたゴシップ記事のようなものを書かれる程度に、才覚があり妬み嫉みの対象となったという話もあるので、こうした教養があっても不自然ではない。
ところが、第三十九段を見るとこのような内容である。
「説経師(せきょうじ)は顔よき。つとまもらへたるこそ、その説くことの尊さも覚ゆれ。ほか目しつれば、忘るるに、にくげなるは罪や得らむと覚ゆ。このことは、とどむべし。少し年などのよろしきほどこそ、かやうの罪得方(えがた)の事も書きけめ、今は、いと恐ろし…」
意訳すると
「仏法を説く人はイケメンのほうがいい。そのほうが顔に見とれつつ話も自然にちゃんと聞けて内容の良さもわかる。ブサイクな人の話だと顔を背けてしまい、説法の内容も忘れてしまうので、罪を犯した気分にすらなる。こんなことは書かない方がいいのだが。若い頃ならこんなことも平気で書いただろうけど、年をとってくると仏罰はとても恐ろしい…」
真面目に話を聞いていたか微妙なところになる一節だが、清少納言はこれ以外にも割と見た目に関しては手厳しい。
一部ではあるが、百四十四段には
「取りどころなきもの。かたち憎げに、心悪しき人。」(ブサイクで性格の悪いヤツは何の取り柄もない)
三百二十段には
「夏、昼寝して起きいたる、よき人こそ、いますこしをかしけれ。えせかたちは、つやめき寝腫れて、ようせずは、頬ゆがみもしつべし。かたみにうち見かはしたらむほどの、生けるかひなきよ。」(高貴な人が夏に昼寝するのは風情があるが、ブサイクだと顔が脂ぎって腫れて顔自体がゆがんでしまうようだ。ブサイク同士が昼寝して顔を見合わせてしまう間の生きがいのなさはひどいものだ)
これらは仏教とは関係ないが、なかなかにキツいことを書いている。現代でこのようなことを書いたら炎上か、あるいは毒舌で人気となるか、気になるところである。
ジャンル | ことば・文学 |
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掲載日時 | 2020/7/28 16:00 |
学習院大学文学部史学科卒
大正大学大学院仏教学研究科浄土学専攻修士課程修了
高校・大学は剣道部、前職は中学・高校の社会科教員。クイズ作家としてはクイズ研究会やサークル所属経験のない異色の経歴。クイズ番組は好きだったが、プレイヤーとしての経験はアーケードゲームのみ。
僧侶としても、仏教系大学に大学院のみ在籍という極少数派。
有限会社セブンワンダーズ入社後は僧侶とクイズ作家の兼業で活動。法話にもクイズ作成で得た知識や要素を取り入れ、独自性のあるものを展開しているほか、寺院での「仏教クイズ」も企画している。
好きなジャンルは仏教、世界史、サッカー。
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