木魚はなぜ「魚」なの?
本堂に置いてある木魚といえば、一部宗派では使わないのだが、もっとも有名な仏具のひとつだろう。
寺院によっては法要中、参列者と一緒に打ちながら念仏を称えるようなところもあるので、触れたことのある方も多いかも知れない。
杢魚と書くこともあるが、いずれにしろ「魚」の文字が入っている。今回はこの文字の理由について触れていきたい。
こうした場合によくあるのは当て字のパターンだが、木魚については該当しない。実際に木と魚に関連している。
まず、木製なのはいうまでもないだろう。素材にはクスノキやクワなどが使われる。丸太で購入し、切り刻み、中をくりぬいていく。
一方、魚のほうだが、木魚の正面をよく見ると鱗状の模様のようなものがある。これは魚や龍、鯱などをモチーフにしている。よくわからない場合は逆さに見てもらえれば、何となくはわかるだろう。
そして、そのモチーフが採用されている理由だが、魚はかつて眠らない(眠るときも目を閉じない)生き物と考えられていた。そのため、修行僧は魚のように寝る間を惜しんで修行するようにという意味を込めて、魚の形をした平らな板(開梆、かいぱん)というものが作られた。原型が生まれたのは中国、宋の時代頃のことといわれる。
この魚板の日本でのルーツは京都府宇治市にある黄檗宗の本山の萬福寺とされ、インゲンマメでも有名な隠元禅師が江戸時代に伝えたものとされる。これは時刻を示すのに鳴らされ、それが他の禅宗寺院などにも伝わり、食事や起床の合図にも用いられるようになった。
また、この開梆の魚は口に球体をくわえている。これは煩悩を示したもので、叩くことでそれを吐き出すという意味を持つ。
それが変形して明代頃に現在のような形になったとされる。いずれにしろ、現在「木魚」といった場合には板状のものではなく、中が空洞の円形、で打つとポクポク音のするものを指す。
ちなみに、韓国の仏教寺院では現代でも前述の板状のものが吊されているのが見られる。手に持って使う、僧侶が墓前で出しているような小型のものは「木鐸(もったく)」といい別物だ。
知名度に対して木魚生産は限定的で、近年は中国産も多いが、日本では愛知県のみということだ。
手作業の工程も多く、木材も乾燥させる期間などがあるため、完成まで10年以上を要するものもある。
当然、値段もそれ相応になる。元々仏具の鳴り物は力一杯叩くと音が割れて美しくない。触れる機会があれば価格のことも頭に入れてややソフトに叩くといいかも知れない。
ジャンル | 社会 |
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掲載日時 | 2021/6/8 16:00 |
学習院大学文学部史学科卒
大正大学大学院仏教学研究科浄土学専攻修士課程修了
高校・大学は剣道部、前職は中学・高校の社会科教員。クイズ作家としてはクイズ研究会やサークル所属経験のない異色の経歴。クイズ番組は好きだったが、プレイヤーとしての経験はアーケードゲームのみ。
僧侶としても、仏教系大学に大学院のみ在籍という極少数派。
有限会社セブンワンダーズ入社後は僧侶とクイズ作家の兼業で活動。法話にもクイズ作成で得た知識や要素を取り入れ、独自性のあるものを展開しているほか、寺院での「仏教クイズ」も企画している。
好きなジャンルは仏教、世界史、サッカー。
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