お寺への相談、内容はどの程度守られる?
一昔前は困ったことがあると寺院へ相談というのはそこまで珍しいことでもなかったようだ。私の母もかなり深刻なもの含めて色々相談を受け、中には非常に効果的な対応ができたという。
近年は寺院との関係や地縁の希薄化、恥ずべきことだがそもそもの僧侶への信頼の低下などで、そういった相談は大幅に減っている印象だ。
しかし、どうしても人に言いにくいこともあるだろう。そうした悩みを寺院などに行って相談した場合、どの程度秘密が守られるかをテーマとしたい。
今回も法律が関連するため、当山の顧問弁護士・琥珀法律事務所(https://www.kohaku-law.com/)の川浪芳聖先生に質問し、回答をいただいている。以下の法解釈や判例の内容は回答書そのままか意訳要約となる。
まず、刑法134条2項では「宗教、祈祷若しくは祭祀の職にある者又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らした場合、6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する」とされている。
お参りの際に何か相談した場合、相談した人は相談相手が僧侶などの立場であるからこそ相談したものと考えられ、相談を受ける側も業務の一環であると認識しているため、そこで得た情報は業務上取り扱ったものといえる。したがって、その情報を他に漏らすと秘密漏示罪が成立する可能性がある。
刑法134条2項の「正当な理由」がある場合とは、法令上告知義務を負う場合(たとえば、医師が患者を麻薬中毒者であると診断した際に都道府県知事への告知義務を規定する「麻薬及び向精神薬取締法」58条の2第1項など)や、秘密の主体たる本人が承諾した場合が該当する。
神父や僧侶が「●●事件を起こしたのは私だ」という懺悔を受けた場合、神父や僧侶にはそれを警察等に報告しなければならないという法令上の告知義務はない。したがって、懺悔した本人が警察に報告することを同意していない限り、警察に報告すると秘密漏示罪に問われることになる。
他方で、たとえば「3時間後に新宿駅構内でナイフを利用して無差別殺人を開始する」という懺悔を受けた場合には、警察や消防等に報告しても秘密漏示罪には問われないものと考えられる。
この場合「自己又は他人の生命、身体又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない」と規定する刑法37条(「緊急避難」)又は「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」と規定する刑法35条(「正当行為」)に該当するか、可罰的違法性(刑罰に値する程度の違法性)がないと考えられるためだ。
逆に、この悩みについて提起して研究対象にして欲しいなど、秘密の主体たる本人が承諾した場合には、正当な理由があるとして、秘密漏示罪は成立しない。
しかし、これも本人が承諾した内容・範囲・方法に限って開示が許されることになる。仏教会の研究テーマとして取り上げることを承諾したものの、その研究成果がインターネット上に掲載されることは承諾していないというような制限をつけることもできる。
このように、寺院へ悩みなどを相談した場合、その秘密は刑法により守られることとなる。親しい友人などにも言えない悩みや、絶対に知られたくない秘密を含む内容などは、寺院へ持ち込むのも有効な手段のひとつかも知れない。
もちろん、そのためには信頼が第一だが、多くの僧侶は檀信徒の悩みに対して真摯に向き合う気持ちは有している。自身を含め人は凡夫と思っている僧侶は、相当なことでも偏見を持つようなことはないはずだ。お参りなどを通じて信頼できると判断したなら、いつでも話を持ってきてもらいたい次第だ。
ジャンル | 社会 |
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掲載日時 | 2020/10/27 16:00 |
学習院大学文学部史学科卒
大正大学大学院仏教学研究科浄土学専攻修士課程修了
高校・大学は剣道部、前職は中学・高校の社会科教員。クイズ作家としてはクイズ研究会やサークル所属経験のない異色の経歴。クイズ番組は好きだったが、プレイヤーとしての経験はアーケードゲームのみ。
僧侶としても、仏教系大学に大学院のみ在籍という極少数派。
有限会社セブンワンダーズ入社後は僧侶とクイズ作家の兼業で活動。法話にもクイズ作成で得た知識や要素を取り入れ、独自性のあるものを展開しているほか、寺院での「仏教クイズ」も企画している。
好きなジャンルは仏教、世界史、サッカー。
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