コントのように葬儀で大騒ぎするとどうなる?
最近はテレビで大がかりなセットを使ったコント番組を見なくなった印象だが、私の幼少期には頻繁にあった印象だ。
その中でも、近年やると不謹慎だなどと叩く人もいそうなものだが、葬儀をネタにしたものは割と定番というか、よくある設定のひとつだったように思える。
うるさくして怒られる、びっくりして亡くなった人が蘇るなど、展開はある程度読めそうな鉄板ネタだが、これらを実際にやったらどうなるか、実は怒られるだけで済まない可能性がある。刑法188条の第2項に「説教、礼拝又は葬式を妨害した者は、1年以下の懲役若しくは禁錮又は10万円以下の罰金に処する。」とあるのだ。
ちなみに、通夜については「葬式」に含まれるという見解と、「礼拝」に含まれるという見解があるが、いずれにしろこの説教等妨害罪の客体となるとされている。
法律絡みなので、今回の内容に関しては当山の顧問弁護士である、琥珀法律事務所(https://www.kohaku-law.com/)の川浪芳聖先生に質問し、回答をいただいている。以下の法解釈や判例の内容は回答書そのままか意訳要約となる。
まず、上記のような法律があるものの、これまでこの刑法188条2項を理由に刑事罰が処された事案は数件しかないということだ。そのうちの2件は
①通夜の際に仏壇に祀ってある法名を密かに取り外して,通夜に使用できなくした行為について礼拝妨害の罪(刑法188条2項)が成立すると判断したもの(大審院昭和14年11月11日判決)
②被害者が亡き父の葬式を行うために共同墓地内に掘った墓穴を埋めてしまい,被害者をして別に墓穴を掘って埋葬させることを余儀なくさせ,埋葬の時刻を遅延せしめた行為について葬式妨害の罪(刑法188条2項)が成立すると判断したもの(東京高裁昭和29年1月18日判決)
である。1つは大審院判決なので、明治憲法の時代だ。
ここでの「妨害」とは、説教、礼拝、葬式の平穏な遂行に支障を与える一切の行為のことで、妨害の手段・方法は問わず、説教等に一定の支障が生じれば足り、結果として説教等が現実に阻止されたことまでは要しないとされている。
また、「妨害」は一時的なものであってもよいとされており、たとえば、燈明を消したり、神体を他に移したり、スピーカー等を用いてうるさく騒ぎ立てたりする行為も「妨害」に該当するということだ。
そして、ある行為が「妨害」に該当するか否かは、具体的な状況を踏まえて、客観的に(問題となる行為の性質・態様から)判断される。
「遺族が不快に感じる」「僧侶が葬儀継続は困難と判断する」のような主観的な観点から「妨害」に該当するか否かを判断すると、遺族や僧侶次第で「妨害」に該当したりしなくなったりすることになり、法的安定性に欠けるため、こうした主観的な事情は重視されない。
そのため、遺族や僧侶が容認したからといって「妨害」に該当しなくなるわけではないが、容認する=被害届が警察に出されないことなので、警察に検知されなくなり、事実上処罰はされないということになる。
とはいうものの、やはり通夜・葬儀は心静かに故人を偲ぶのが望ましいだろう。執り行う側も声の調子・法話の内容など、そうなるよう考慮しているので、それを感じ取ってもらえればと思う次第だ。
上記が刑法188条第2項における「妨害」に関するものだが、それだけで済まない場合もある。
もし、祭壇をひっくり返してしまった場合、器物損壊罪(刑法261条)や業務妨害罪(刑法234条)が、遺体を損壊してしまった場合は死体損壊罪(刑法190条)が成立する可能性がある。
僧侶を「このハゲ」などと大声でなじった場合には侮辱罪(刑法231条)が成立しうる。このような1つの行為が複数の罪に該当する場合を「観念的競合」(刑法54条1項前段)といい、複数の罪のうちもっとも重い刑によって処断されることになる。
では、偶発的な場合はどうか。ドリフターズのコントなどにありそうだが、杖をついていかにも足下があやしい老人が転んでしまって祭壇を倒してしまうようなケースだ。
犯罪が成立するには「罪を犯す意思」(「故意」)が行為者にあることが必要とされ、不注意で起こした行為を処罰する過失運転致死傷罪のようなものは例外である。そして、今回のテーマの説教等妨害罪には過失犯を処罰する規定がないため、つまずいて祭壇を破壊した場合などは不可罰となる。
しかし、これは刑事上の問題で、民法709条では故意又は過失によって他人の権利や法律上保護される利益を侵害した者は、それによって生じた損害を賠償する責任があると定められているため、葬儀の主催者から損害賠償を請求される可能性がある。
近年は斎場もバリアフリーが進んでおり、参列者席や焼香台付近につまずくような配線などはあまり見られない。このような事態を引き起こすことはまずないだろうが、高齢者の転倒は危険なため、足下が不安な参列者には介助があることが望ましいだろう。
ちなみに、葬儀に際してよく気を使われるのが、「赤ちゃん・幼児連れで問題ないか」ということだ。
拝んでいる側としては、赤ちゃんが泣いてしまっても、読経自体に集中していたり時間配分を考えていたりするので、正直な話、気にならない。近年は家族葬が基本なので、文句をつけてくる外部の人も存在しないだろう。もちろん妨害などとは誰も思わないだろうし、気まずかったら赤ちゃん・幼児を連れて少し外へ出てもまったく問題はない。
逆に、幼児連れで参列する側の大変さもよくわかる。義祖父の葬儀に参列した際は通常の数倍は苦労した。とはいえ、故人にとって孫・曾孫にあたるような子を最後のお別れに連れて行かないのも寂しいかななどと思う気持ちもあるだろう。
結局のところはどちらでも問題ないと思うが、いずれにしろ大変さを理解してあげることが一番だ。子どもがまだ小さいからといって欠席するのも不義理ではないし、頑張って参列してくれたらそれは気持ちをかってあげて、多少のことには目をつむる、これも仏教の寛容な精神だろう。
ジャンル | 社会 |
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掲載日時 | 2020/7/25 16:00 |
学習院大学文学部史学科卒
大正大学大学院仏教学研究科浄土学専攻修士課程修了
高校・大学は剣道部、前職は中学・高校の社会科教員。クイズ作家としてはクイズ研究会やサークル所属経験のない異色の経歴。クイズ番組は好きだったが、プレイヤーとしての経験はアーケードゲームのみ。
僧侶としても、仏教系大学に大学院のみ在籍という極少数派。
有限会社セブンワンダーズ入社後は僧侶とクイズ作家の兼業で活動。法話にもクイズ作成で得た知識や要素を取り入れ、独自性のあるものを展開しているほか、寺院での「仏教クイズ」も企画している。
好きなジャンルは仏教、世界史、サッカー。
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