閻魔大王の顔が真っ赤なのはなぜ?
一昔前は「嘘をつくと閻魔様に舌を抜かれる」などという言葉を聞いたものだが、近年はどうなのだろうか。
そんな躾のシーンでも名前のあがることから、閻魔大王は日本ではかなり馴染み深い存在ではないだろうか。仏教以外でもゲーム『女神転生』シリーズではサンスクリット語名のヤマ(インドで冥界の王とされ、仏教に取り入れられた)で登場していたし、アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』でも鬼太郎の旧知の仲のような扱いだ。他にも数えればきりがないレベルで目にするだろう。
そんな閻魔大王は、あの世で亡者を裁く裁判官である「十王」に数えられる。初七日や四十九日という言葉はご存じだろうが、亡くなった人は三途の川を渡り、7日ごとに十王のひとりから順に裁判を受ける。一般的に納骨が行われる四十九日に来世生まれる先が決まるという。ここまで見ると、十王だと数が合わないように思えるが、残りは百か日・一周忌・三回忌のタイミングで裁判が行われる。これらは、万一地獄道などに堕ちたとしても、遺族の供養によって救いの道が示される再チャンスとされる。
よく、閻魔大王は四十九日の区切り目の裁判と勘違いされるのだが、実は五七日、35日目の担当だ。京都の同業の友人などは逮夜で7日ごとの前日に全て法要を勤めているそうだが、私の経験上、都内・関東一円において四十九日以外で特にこのような法要を行っている例は見たことがない。どちらかというと、中途半端なタイミングと感じる方もいるのではないだろうか。
この十王の裁判の思想は中国で生まれ、そこから伝わったとされるが、中でも閻魔大王がクローズアップされるのは、前回の通り地蔵信仰の影響もさることながら、浄玻璃鏡(じょうはりのかがみ)で生前の行いを全て映し出す、コンニャクが好物(これは後付けだが)のような、妙にキャラが立っているところも一因と推測している。現代でも、おそらく他の十王を知っている人はいないだろうが、閻魔大王は常識レベルの認知度だろう。
キャラ立ちといえば、地蔵菩薩のところで触れたように、閻魔大王像はもれなく険しい表情をしており、色がついているものは真っ赤な顔をしている。閻魔大王を本尊とする鎌倉・円応寺のものなどが有名だろう。
この顔色は悪事をはたらいた亡者に激怒しているだけではなく、閻魔大王自身も地獄での責め苦を味わっているためなのだ。地獄の責めの中に溶けた銅を口から流し込むというものがあるが、それを1日3回受けている。これはさすがの閻魔大王も平然と受け流せるわけではなく、非常に苦しむという。こんな無茶を1日3回も出来るのは、地獄では切り刻まれようが何をされようが苦しんだ後、すぐに体が回復するためだ。
なぜ、わざわざただごとではない苦しみを受けるかというと、人を裁いて苦しみを与えること、それが自身の罪になってしまうためなのだ。
そのようなわけで、閻魔大王が亡者を裁いて地獄に送るのは本意ではない。むしろ、悪人がいなくなれば、自分の苦しみも減ることになる。そのため、浄玻璃鏡や閻魔帳で嘘がつけない状況を作り出す、抑止力として地獄行き(抑止にならず実際に出てしまうことが多いが)の恐怖をちらつかせるといったことで、人間が善人として生きて欲しいと思っているのだ。
この点を見ると『おじゃる丸』の閻魔大王の顔は緑色だが、お説教部屋行きという処置は実は的を射た表現なのだ。
ジャンル | 社会 |
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掲載日時 | 2020/6/20 16:00 |
学習院大学文学部史学科卒
大正大学大学院仏教学研究科浄土学専攻修士課程修了
高校・大学は剣道部、前職は中学・高校の社会科教員。クイズ作家としてはクイズ研究会やサークル所属経験のない異色の経歴。クイズ番組は好きだったが、プレイヤーとしての経験はアーケードゲームのみ。
僧侶としても、仏教系大学に大学院のみ在籍という極少数派。
有限会社セブンワンダーズ入社後は僧侶とクイズ作家の兼業で活動。法話にもクイズ作成で得た知識や要素を取り入れ、独自性のあるものを展開しているほか、寺院での「仏教クイズ」も企画している。
好きなジャンルは仏教、世界史、サッカー。
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