旅に持って行くと良いとされるお経は何?
この原稿を書いているのは2021年。GOTOキャンペーンがあったものの、個人的には旅行に出られなくなり久しい。特に海外旅行はいつになることかと、気持ちが沈んでいる方も多いことだろう。
そんな中ではあるが、日常が戻り気兼ねなく外出が出来るようになったときに向け、タイトルのお経とエピソードを紹介したい。
まず、そのお経とは、誰でも知っている『般若心経』である。そして、そのエピソードは、『西遊記』でおなじみの三蔵法師こと、唐代の僧・玄奘に由来する。
厳密にいうと、三蔵法師は玄奘のみのことではない。三蔵とは仏教の経蔵(経典、仏の教え) 、律蔵(戒律書、仏教徒の守るべき戒)、論蔵(経・律の注釈・研究書)をよく修めた高僧を称えた称号で、何人かが存在する。しかし、代表的なものが玄奘なので、ほぼイコールとしても通用する。
玄奘は13歳で出家したものの、より仏教を学びたいとして、海外留学の許可を求めるのだが、唐はまだ建国初期のため諸々不安定で(629年)、出国の許可が下りなかった。
だが、玄奘の意欲は高まる一方で、無許可のままインドへゴビ砂漠などの難所を含む陸路で向かう。教科書などで「国禁を犯して」などの記述が見られるのはそのためだ。この際、40人程度の同行者がいたそうだが、全て事故などで亡くなったという。
そして、当時の大乗仏教研究の中心とされていたナーランダー僧院(現在のビハール州にあったとされる)でシーラバドラ(戒賢)に師事したほか、各地の学者のもとを回って多数の経典を得て唐へ帰国した。そして、帰国後はそれらの翻訳にいそしみ、20年間で1235巻を漢訳したといわれる。
その漢訳経典の中に『般若心経』も含まれるのだが、この経典を入手した際にはちょっとしたエピソードがある。
玄奘がインドを目指す途中、ある老僧に出会った。しかも、その老僧はハンセン病ということで、誰も助けることはなく、玄奘の同行者すら顔をしかめた。
しかし、玄奘は老僧を献身的に看病する。それに感謝した老僧は玄奘に一巻の経典を授けるのだが、それが『般若心経』だった。
そして、とうとうナーランダー僧院にたどり着くと、その老僧が立っており、「私は観音菩薩の化身である」と告げ、天に消えていったという。これが、『般若心経』が旅の無事に効果があるとされる由縁である。
ちなみに、玄奘は帰国後にこの旅で見聞したインド周辺諸国の情報を『大唐西域記』にまとめている。これを踏まえて『西遊記』が書かれたのも有名な話だ。
近年は百均でも目にする『般若心経』だが、次回の旅行の際にはぜひ仕入れて、その効果を実感していただきたい次第だ。
ジャンル | 生活 |
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掲載日時 | 2021/5/2 16:00 |
学習院大学文学部史学科卒
大正大学大学院仏教学研究科浄土学専攻修士課程修了
高校・大学は剣道部、前職は中学・高校の社会科教員。クイズ作家としてはクイズ研究会やサークル所属経験のない異色の経歴。クイズ番組は好きだったが、プレイヤーとしての経験はアーケードゲームのみ。
僧侶としても、仏教系大学に大学院のみ在籍という極少数派。
有限会社セブンワンダーズ入社後は僧侶とクイズ作家の兼業で活動。法話にもクイズ作成で得た知識や要素を取り入れ、独自性のあるものを展開しているほか、寺院での「仏教クイズ」も企画している。
好きなジャンルは仏教、世界史、サッカー。
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