お酒は飲むより○○するほうがNG?
仏教には飲酒戒(おんじゅかい、不飲酒戒などとも)というものがあり、酒を飲んではいけないとされるのは、広く知られている話だろう。
私も飲み会に行くと「坊主が酒を飲むな」などといわれるわけだが、それならそもそも呼ばないかウイイレ大会にでもしろといいたいところである。
現代は諸々緩くなっており、律儀に守っている人も少なそうだが、今回はこの飲酒についてテーマとしたい。
まず、この飲酒の罪に関しては逸話がある。『四分律(しぶんりつ)』という戒律に関する典籍によると、釈尊の弟子のひとりに莎伽陀(サーガタ、シャガタ)という弟子がいた。彼は神通力に優れた人物で、ある国を苦しめた悪龍をその力をもって抑え、ついには仏弟子にまでしたという。
このような人物であったにも関わらず、あるとき酒を含んだ飲食の供養を受け、泥酔して醜態をさらしてしまう。そして、その姿を見た釈尊は「あの優れたシャガタですら酒に酔うとこの様である。凡人であればなおさらだ。」と教団において以後の飲酒を禁じる。実は、それまでは「絶対に禁止」というものでなかったのだ。
ちなみに、これを犯すと「波逸提(はいつだい、prāyascittikaプラーヤシュチッティカの音写)」というものにあたる。これはその罪を告白・懺悔すれば許される、いわば軽罪である。
『梵網経(ぼんもうきょう)』という経典にも酒に関する罪がある。先の飲酒することもあるのだが、より重罪とされているのは「酒類の製造・販売」である。その理由は大雑把にいってしまえば「人に悪いことをさせるように仕向ける」からだ。
上記のように飲酒の問題は、酔って醜態をさらしたりトラブルを起こすことにある。それを幇助するというのが問題なのだ。
現代でも飲酒運転をする可能性が高い者に酒を提供した店は罰せられるが、それに通じるものがある。
実際にこの酒を売る罪は「波羅夷(はらい、:pārājikaパーラージカの音写)」とされ、これは教団からの追放で、二度と僧侶に復帰できないという重いものである。
散々緩いとされている日本の仏教でも実はこれらをしっかり守っているような箇所も随所に見られる。たとえば、禅宗の寺院の門前には「不許葷酒入山門」の文言があり、酒を寺内に入れないよう注意していたところもある。
また、天台宗の開祖である伝教大師は『臨終遺言』、その名の通り弟子への遺言の第二条で「又我同法。不得飲酒。若違此者。非我同法。亦非佛弟子。早速擯出。不得令踐山家界地。若爲合薬。莫入山院。」(飲酒する者は自分の弟子ではないし仏弟子でもない。薬のためとしても寺院に入れてはならない)と飲酒について戒めている。
しかし、これには抜け道もある。先の伝教大師の言葉の末尾には「薬としても寺に入れてはいけない」とあるが、薬としては一部認可されていたようだ。
真言宗の開祖である弘法大師は『御遺告』において、飲酒の問題点について指摘した上で、病気の者については塩と酒を認めるとしている。
そして、当時の寺院の立地を考えれば、飲酒を極度に戒めるのは難しい理由もある。現在のように平地ではなく山中にあるものが多く、は寒さも厳しいため、そこでの飲酒は、ロシア人がウォッカを飲んでから寝るようなものだろう。
実際に私が京都のやや標高の高いところにある寺院で寝泊まりした際には9月には毛布が用意された。さすがにまだ不要ではないかと思ったが、明け方の寒さには毛布が必要だった記憶がある。
また、寺院での酒造についても記録が残っている。神仏習合の時代もあり、寺院内で御神酒を造っていたのも珍しいことではない。大阪府河内長野市にある金剛寺で作られていた天野酒は豊臣秀吉が愛飲したことでも有名で、現代の日本酒の基礎のひとつでもあるという。これは贈答品としても人気で、江戸時代は将軍にも献上された。
これは基本的にお供えなので問題なし、といったところだろうか。重要なのは前後不覚になって他人に迷惑をかけないということ。それを守れば売った側も重罪とはされないだろう。
実際に酒屋の檀家も珍しくはないが、別段悪いことが頻繁に起こるなどということはない。これも大乗仏教の良い面ではないだろうか。
ちなみに、浄土宗の開祖・法念上人は『一百四十五箇条問答』、現代でいえば仏教のFAQのようなものだが、ここで飲酒の可否に対する問いに「世の習いであるから、ほどほどならば」と回答している。
忘年会・新年会・歓送迎会とお酒を飲める機会は現代には多くあるが、あまり派手な酔い方をすると売った側にも迷惑がかかりそうなものだ。自身のためだけではなく、周囲のことも考えてほどほどが大切である。
ジャンル | 生活 |
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掲載日時 | 2021/2/2 16:00 |
学習院大学文学部史学科卒
大正大学大学院仏教学研究科浄土学専攻修士課程修了
高校・大学は剣道部、前職は中学・高校の社会科教員。クイズ作家としてはクイズ研究会やサークル所属経験のない異色の経歴。クイズ番組は好きだったが、プレイヤーとしての経験はアーケードゲームのみ。
僧侶としても、仏教系大学に大学院のみ在籍という極少数派。
有限会社セブンワンダーズ入社後は僧侶とクイズ作家の兼業で活動。法話にもクイズ作成で得た知識や要素を取り入れ、独自性のあるものを展開しているほか、寺院での「仏教クイズ」も企画している。
好きなジャンルは仏教、世界史、サッカー。
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