お盆とは何に由来するもの?
今年は旅行や帰省も悩むところとなってしまっているが、お盆休みの時期が近づいてきた。おそらく多くの方は8月中旬と思われる。お盆と聞いて、8月の五山の送り火をイメージした人もいるだろう。時期的に、そのお盆とは一体何なのかを今回のテーマとしたい。
お盆のほうが馴染みはあるが正式には盂蘭盆(うらぼん)という。サンスクリット語のウランバーナ(ullambana)の音写であり、その語源はイラン系言語で「霊魂」など諸説あるが、近年は盂蘭の由来を「ご飯」を意味するオーダナ(odana)とし、それを乗せたお盆を意味するという説も出ている。これは一見トンデモ説のようだが、内容を見るとそうとも言えないものだ。
では、その内容を見てみよう。由来となるのは『盂蘭盆経』で、中心となるのは釈尊の十大弟子に数えられる、神通第一と称された目連(目犍連)尊者だ。以前触れた『阿弥陀経』の聴衆としても挙げられていたが、舎利弗とともに仏教へ帰依した人物である。
あるとき目連尊者が亡き母はどうなっているのか、神通力をもって見てみたところ、餓鬼道に堕ちて苦しんでいることがわかった。母は非常に優しく悪事に手を染めるような人でもなかったので、どうすれば救うことができるかを釈尊に尋ねた。
まず、釈尊は目連尊者の母親は我が子かわいさで、全ての子どもに対して平等に接しなかったため餓鬼道に堕ちたということを明らかにした。誰しも当然持つ気持ちなのだが、それが罪になるというのも恐ろしい話だ。
そして、安居(あんご、頭に「夏」をつけて「げあんご」ともいう)という陰暦4月16日から7月15日にかけて行われる出家者の修行の自恣(じし、最終日に行われる反省会)に食事の施しを行えばその功徳をもって母を救うことが出来ると教えた。
それを聞いた目連尊者は言われた通りに施しを行い、母親も救われたという。この故事にならったものが盂蘭盆である。このストーリーを見ると「お盆に乗せたご飯」というのも意味が通っている。
ところが、これを見ると一般的なイメージである8月ではなく7月に行われている。実はその通りで、本来なら7月15日を中心として、7月13日から16日にかけて行われるものなのだ。
8月に行うようになった理由は2つある。まずは、上記の7月15日が旧暦とされていたところに注目してもらいたい。これをそのまま引き継いでしまうと、毎年月がずれてしまうことになる。それを避けるため、旧暦の7月15日を新暦に当てはめると8月上旬から9月上旬頃になるため、1月遅れの8月15日を中心に固定したのだ。
もう1つは農業の関連である。新暦7月15日は農村では農繁期にあたる。そのため、1月遅らせたというものだ。
そのような理由もあり、私が住職を務めるもの含め、都内の寺院のお盆は基本的に7月で、そこで合同法要なども実施される。ただし、先のように8月に行うイメージの方も多いので、帰省のタイミングなどもあり、8月にも旧盆(旧暦の盆)法要を別途行うところもある。8月に一家揃ってお参りというのも珍しいことではない。
そして、お盆といえば精霊馬や迎え火・送り火をイメージする方も多いだろうが、祖先がこの世に帰ってくるといわれる期間だ。これは仏教思想ではなく、日本の民間信仰と結びついて生まれたもので、定着したのは江戸時代のことといわれる。
お盆の日本への伝来自体はもっと古く、推古天皇の時代(606年)とされ、宮中行事として定着したのは聖武天皇の時代(733年)という。そこから長い期間を経て現在の形になっていったのである。
日本人といえば色々入ってきたものを改造する傾向があるが、盂蘭盆も独自の変化を遂げていたのだ。
なお、近年は住宅事情の変化もあり、迎え火・送り火についてよく聞かれる。基本的に無用なトラブルが発生しうる場合は仏壇で線香を焚いて迎える形で問題ない。寺院側からは13日に送り火、16日に迎え火(送り出す側だから逆)を行っているので、今年の夏も各家に戻ってくれるだろう。
今まで恒例行事として何となく行っていた方も、ぜひ意味を理解した上で、先祖へ功徳を回し向けてもらえればと願うところだ。
ジャンル | 生活 |
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掲載日時 | 2020/7/7 16:00 |
学習院大学文学部史学科卒
大正大学大学院仏教学研究科浄土学専攻修士課程修了
高校・大学は剣道部、前職は中学・高校の社会科教員。クイズ作家としてはクイズ研究会やサークル所属経験のない異色の経歴。クイズ番組は好きだったが、プレイヤーとしての経験はアーケードゲームのみ。
僧侶としても、仏教系大学に大学院のみ在籍という極少数派。
有限会社セブンワンダーズ入社後は僧侶とクイズ作家の兼業で活動。法話にもクイズ作成で得た知識や要素を取り入れ、独自性のあるものを展開しているほか、寺院での「仏教クイズ」も企画している。
好きなジャンルは仏教、世界史、サッカー。
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