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石膏像コピーのおかげで、戦災で失われた後も観られる彫刻がある?

今回も、名作彫刻の石膏像コピーに関するマルバツクイズです。

以前古代〜ルネサンス期の名高い彫刻作品の「石膏像コピー」が西洋文明圏諸国の美術館のメイン展示だった時代があるというテーマのクイズをしましたが、ではその石膏像コピーが残っていたおかげで、元になった彫刻が所蔵されていた美術館が運悪く戦災に巻き込まれてしまい当該彫刻も損壊し現存していないにも関わらず、元の作品がどんなものであったかを「写真などの画像ではなく、あくまで立体の彫刻として」知ることができるケースが存在するというのは、マルでしょうかバツでしょうか?

 

 

・・・正解は、「マル」です。

 

その彫刻作品は、ルネサンス期のイタリアの彫刻家フランチェスコ・ローラナによる15世紀頃にミラノの実質的な君主であったスフォルツァ家の息女でナポリ王妃だったマリア・スフォルツァの肖像彫刻『マリア・スフォルツァ胸像』(日本では近年まで、「教材用石膏像」としては『マリエッタ・ストロッチ胸像』というフィレンツェの有力な金融業者の息女だった別人の肖像彫刻と間違われた名前で流通していました)です。

 

この像は、大理石像のオリジナル作品がベルリン美術館に所蔵されていましたが、第二次世界大戦時の爆撃で破壊されたため現存せず、他国の美術館(イギリスのヴィクトリア・アンド・アルバート美術館やロシア(当時・ソビエト連邦)のプーシキン美術館など)に所蔵され、20世紀半ば以降の美術館からの石膏像コピーの撤去・廃棄の動きの中でも廃棄されなかった(あるいは、廃棄されたが“粗大ゴミ”扱いでなく、他の美術館や教育機関などそれなりの施設で所蔵されることになった)石膏像コピーだけが残っています。

ちなみに脇本壮二氏によれば、日本で流通している『マリア・スフォルツァ胸像』の教材用石膏像はヴィクトリア・アンド・アルバート美術館所蔵の石膏像コピーに典拠するそうです。

 

なお先述した『マリエッタ・ストロッチ胸像』の“本物”も同じくベルリン美術館所蔵でしたが、損壊を免れて今もオリジナル作品がベルリン美術館にあります。

 

石膏像コピーが、このようにオリジナルの作品が戦災や自然災害などのために失われてしまった後にもその作品がどんなものであったかを知る拠り所となる形で「役に立って」しまうのは矢張り残念ですが、このケースも美術作品の失われやすさという人類への戒めとして、知っておいた方がよいでしょう。

 

また補足すると、先述したヴィクトリア・アンド・アルバート美術館は美術館からの石膏像コピーの撤去や廃棄の動きの中でもそれらの石膏像を視覚資料として展示するのを続けましたが、これを見た東京美術学校(現在の東京藝術大学)の教授で、アメリカのボストン美術館から廃棄扱いになった石膏像を東京美術学校で多く引き取った際の立役者でもある矢代幸雄は、日本でもこうした名作の聞こえのある海外の様々な彫刻作品の石膏像コピーを日本の美術館でも視覚資料として扱うべきだと指摘しています(残念ながらそれは実現されませんでしたが)。

 

 

<参考文献>

荒木慎也『石膏デッサンの100年 石膏像から学ぶ美術教育史』アートダイバー、2018

脇本壮二『石膏像図鑑』堀石膏制作、2015

 

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準デジタル・アーキビスト資格所持者
ペットセーバーベーシック・アドバンス資格所持者
せっぱつまりこ

法政大学大学院国際日本学インスティテュート修士課程修了(学術修士の学位有り)

10代前半から美術史に、1617歳頃から葬儀・埋葬史に強い関心を持ち、紆余曲折を経て現在では特定分野に特化したクイズ原案作者を名乗る。

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