ルネサンスの二次創作的神話画で、最高神が取り組む美術は?
以前取り上げた、19世紀後半〜20世紀前半に活躍したドイツの彫刻家クリンガーによる『ベートーヴェン像』は、それ以前には一般的に国家元首がなぞらえられることが多かったギリシャ神話の最高神ゼウス(ローマ名ユピテル、英語発音ジュピター。
「大神ゼウス君の世界神話教室シリーズ」でお馴染みの、あの彼です)に芸術分野の偉人としては珍しく(私が知る限りでは初めて)なぞらえられた「神話的肖像」として画期的です。
ところで、芸術家の偉大さを讃える「神話的肖像」としては、伝統的には像主(モデル)となる様々な分野の芸術家を太陽神にして芸術の神でもあるアポロンになぞらえたり(女性の像主なら、芸術の女神九姉妹ムーサ(英語発音ミューズ)の一人になぞらえられるのが多いです)、あるいは現代(当該像主の時代)の服装の像主がムーサによって霊感を授けられる場面などが一般的でした。
つまりその芸術家がどれほど偉大であっても、彼(あるいは彼女)を讃える文脈の作品にゼウスが登場することは基本的になかったわけです。
しかし、これはいわゆる神話的肖像ではないですがルネサンス期に活躍したイタリアの画家ドッソ・ドッシの、フェラーラ領主アルフォンソ・デステのために描かれた作品(英語タイトルでは『Jupiter, Mercury and the Virtue(直訳すると『ジュピターとマーキュリーと美徳』となります。なお、美術作品のタイトルとしては、多くの場合ギリシャ神話の登場人物はローマ名で呼ばれます)』は古代ギリシャ神話にはないエピソードを描いた、いわゆる二次創作的な神話画ですが、そこではゼウスがまさにある美術に取り組んでいます。それは、次のうちのどれでしょうか?
1,絵画
2,彫刻
3,彫金
・・・正解は、1番の「絵画」です。なお、日本語での一般的なタイトルは『蝶を描くゼウス』です。
神々の住処オリュンポス山(地面が「雲」になっており、大きな虹がかかっていることからわかります)でのとあるひとコマとしての設定であり、「美徳」の擬人化キャラクターとされる若い女性(つまり彼女は、いわば二次創作に登場するオリジナルキャラの「美徳さん」なわけです)が油彩かテンペラ画(ここで技法がルネサンス期にできたものなのはご愛嬌です)で蝶(西洋では伝統的に、人間の魂の象徴とされる)の絵を描いているゼウスに何かを話しかけており、ゼウスの後ろに控えている商業の神にして死者の魂の導き手でもあるヘルメス(ローマ名メルクリウス、英語発音マーキュリー)が静かにするよう彼女を制止しているという、様々な解釈が古くからされてきた謎めいたテーマの作品ですが、分野こそ異なりますが“芸術作品の制作者ゼウス”イメージとしてはクリンガーの『ベートーヴェン像』の先駆け的な作品といえるでしょう。
<参考文献>
千足伸行監修『すぐわかるギリシア・ローマ神話の絵画』東京美術、2006
オード・ゴエミンヌ、ダコスタ吉村花子訳、松村一男監修『世界一よくわかる! ギリシャ神話キャラクター事典』グラフィック社、2020
Web Gallery of Art
ジャンル | 歴史 |
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掲載日時 | 2021/4/13 16:00 |
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