群馬県の寺院に現存する、ある昔話に関するものとは?
愛知県犬山市の桃太郎神社は桃太郎が最後に姿を隠したところ、道頓堀は一寸法師の旅立った川など、昔話に関する様々な説が各地に存在する。
御伽噺の類い、実際の出来事とは考えにくいのだが、シュリーマンの発掘のような例もある。あるいは、ベースとなった話が存在してもおかしいことではない。そのようなわけで、今回はある寺院と昔話に関する話をテーマとしたい。
群馬県館林市に茂林寺という曹洞宗寺院がある。ここの山門をくぐると、参道の左右には22体ものタヌキの像が並んでいる。地蔵など仏教に関するものならわかるが、タヌキというのはなかなかユニークだ。
そして、そのタヌキが今回のキーポイント。昔話によく登場する動物なのだが、ここに縁がある話というのはその中でも『分福茶釜』である。
話の内容は有名な部類なので割愛するが、ここは物語の舞台となったことで知られ、不思議な茶釜も現存している。
この寺は1462年、大林正通(だいりん しょうつう)上人による開山で、その際、伊香保山麓で出会った守鶴(しゅかく)という僧を伴ってこの地を訪れたと伝わる。
その後、1570年にここで千人法会が催されることとなり、その来客をもてなすための茶および茶釜が必要になった。そのときに守鶴が茶釜を持ってきたのだが、これが不思議なもので、いくら汲んでも中の湯が尽きなかったという。
さらに、この茶釜を「紫金銅分福茶釜」と名付けて、その湯を飲んだものは出世や長寿などの利益が得られるとした。
しかし、この話には湯が尽きない以上に問題がある。開山から千人法会までには100年近い隔たりがある。しかも、守鶴は当初から老僧ともされる。それが歴代住職に仕え、100年後も健在なのはいくら何でもおかしい話だ。
この守鶴、正体は狢(むじな)で、後の代(千人法会の際の住職は7代目、ここでは十代目)に居眠りしているときに尻尾や毛が出してしまう。
正体がばれてしまったため、彼は釈迦の説法などの名場面を再現した後、鶴になって飛び去ってしまったという。
この逸話を元に『分福茶釜』を著したのが、明治時代の児童文学者の巖谷小波(いわやさざななみ)だ。
タイトルの通り、ここには不思議な茶釜が現存しており、拝観ルートに置かれている。実際に茶を点てることはかなわないが、見事な大きい茶釜だ。
また、観光面にも力が入っており、3月末から4月頭頃には「狸桜まつり」が開催されており、日本舞踊や落語などの出し物もある。
先に出したタヌキの像も名物で、ただ並んでいるだけではなく、夏場はハワイアンスタイルなど、季節に応じて着せ替えが行われている。インスタ映えもなかなかのスポットだ。
門前の土産物屋もタヌキグッズが豊富で、境内でもタヌキに因んだ御守などを頒布している。
見た目も楽しい寺院ではあるが、所在地は猛暑でも知られる館林市。夏の訪問に際しては十分な暑さ対策が必要を心がけたいところだ。
ジャンル | 地理 |
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掲載日時 | 2021/6/8 16:00 |
学習院大学文学部史学科卒
大正大学大学院仏教学研究科浄土学専攻修士課程修了
高校・大学は剣道部、前職は中学・高校の社会科教員。クイズ作家としてはクイズ研究会やサークル所属経験のない異色の経歴。クイズ番組は好きだったが、プレイヤーとしての経験はアーケードゲームのみ。
僧侶としても、仏教系大学に大学院のみ在籍という極少数派。
有限会社セブンワンダーズ入社後は僧侶とクイズ作家の兼業で活動。法話にもクイズ作成で得た知識や要素を取り入れ、独自性のあるものを展開しているほか、寺院での「仏教クイズ」も企画している。
好きなジャンルは仏教、世界史、サッカー。
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