美術館や博物館の祖「驚異の部屋」で使われた意外な分類システムは?
ルネサンス期〜18世紀初頭くらいのヨーロッパでは、君主を始めとする支配者層の人々(後には、富裕な市民階級の知識人も参入する)の間で「驚異の部屋(ドイツ語で「ヴンダーカンマー」とも)」を作るのが流行していました。
この「驚異の部屋」とは、国内外の様々な動植物の標本や化石・鉱物などの標本、当時の最新式のテクノロジーを使った道具、古今の美術品や工芸品などのコレクションを収蔵する部屋や建物のことであり、後の美術館や博物館のはしりともいうべき存在でした。
実際、イタリアのフィレンツェにあるウフィツィ美術館やイギリスのロンドンにある大英博物館などは、本来コレクターのプライベートな空間だった「驚異の部屋」を少しずつではあるが他の人々にも公開するようになったのを母体としています。
ところでこの「驚異の部屋」は、学問や芸術には“素人”な上流層の人々や、そもそも“未発達”な当時の学問や芸術を拠り所としていた知識人が自分(たち)の興味関心の赴くままに様々な資料や機器、芸術品を無秩序に収集・陳列あるいは収納したものであるとよくいわれてきました。
ウィキペディアの「驚異の部屋」の項目にも、「自然物も人工物も珍しいものなら分野を隔てず一所に取り集められるのが特徴」だというくだりがあります。
しかしながら、近年にはそうした一見無秩序に思える収集・陳列及び収納には、あくまで当時なりのではありますが、実は学問的な知見に基づいた分類システムが使われていたケースもあることがわかってきました。
例えば先に少々触れた、ウフィツィ美術館の元になったトスカーナ大公の「驚異の部屋(こちらはイタリア語で「ステュディオーロ」と呼ばれていました)」では、コレクションの一環としての絵画を有効に使った分類がされていました。それはどんな使い方なのかというのが今回の問題ですが、今回は自由形式の回答とします。
・・・正解は、「特定の具体的なテーマを描いた絵画作品の近くに、そのテーマに関連する資料や機器、工芸品などを配置する」です。
より詳しく説明すると、例えば標本や工芸品などのキャビネットを使う収納の場合、そのキャビネットの扉にいわゆる四大元素とされた「火」「水」「土」「大気」などの具体的なテーマ(歴史画や神話画、風景画や当代風俗画(技術や産業に関連する内容)などから、これらと関連の深い画題が選ばれました)の絵を当時の画家に描かせました。
例えば「水」をテーマとする絵の扉の付いた棚には水棲生物の標本や珊瑚・真珠など、「大気」の絵の扉のある棚には様々な鳥の剥製や羽、卵の殻などの標本を収納する、といった分類法です。
なお、これらの収納用キャビネットは壁面に埋め込まれるタイプだったので、扉を閉めた状態では壁一面に様々な絵画作品が飾られているように見えたようです(後述するヴェッキオ宮殿内に再構築されたステュディオーロの写真を見ると、壁にも天井にも沢山の絵画作品が飾られているように見え、歴史の古い美術館を連想させます)。
こうした形でコレクションに一応の分類がされていた「驚異の部屋」は、時代が下ると例えば「自然物」はA室、「人工物」はB室というように、次第により専門的に分化した陳列・収納法を取り入れ、現代の博物館や美術館の原形となっていったのでした。
ちなみにトスカーナ大公家のステュディオーロはこうした潮流の中で16世紀末に一度解体されていますが、20世紀に入ってフィレンツェのヴェッキオ宮殿の中に再構築されました。
<参考文献>
吉新夕記『美術館とナショナル・アイデンティティー』玉川大学出版部、2014
ジャンル | エンタメ・カルチャー |
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掲載日時 | 2021/5/4 16:00 |
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