『鬼滅の刃』に出てくるお経の意味はどんなもの?
【前編】
僧侶にしろクイズ作家にしろアンテナが高いに越したことはない、特にクイズは時事問題の作成も大いに必要なので、流行り物はとりあえず名前と基本情報くらいは手広くさらっておく必要がある。
流行り物を全て追いかけ回すのは不可能だが、「浄土宗の重要な経典が作中に登場している」と聞いたため、少年だったのはだいぶ昔だが『鬼滅の刃』を読んでみた。
そんなこともあり、今回はその経典について解説をしてみようと思う。ちなみに、雑誌連載は追いかけていないので、現在の知識は20巻で止まっている。この先何かあれば追記をする予定だ。
まず、作中に登場するものは以前も少し出したことがあるが、「浄土三部経」のひとつに数えられる『阿弥陀経』というものだ。これは作中でも名称が出ているのでそれ自体は認識している方もいるだろう。
登場箇所は3箇所、1つめは13巻前半の不死川玄弥が半天狗と戦っているシーン、2つめは15巻末の岩柱との修行シーン、3つめは16巻序盤の竈門炭治郎と不死川玄弥の会話シーンの背景である。
前2つについては最初の箇所の有無について多少の差異はあるが、文言は下記である
「如是我聞 一時仏在 舎衛国 祇樹給孤独園」
これは『阿弥陀経』の冒頭部分である。
3つめも一部キャラクターで隠れているものの、上記とその続きの
「與大比丘衆 千二百五十人倶 皆是大阿羅漢 衆所知識 長老舍利弗 摩訶目犍連 摩訶迦葉 摩訶迦旃延 摩訶倶絺羅 離婆多 周利槃陀伽 難陀 阿難陀 羅睺羅 憍梵波提」
までが記されている。
さて、ここまでの経文の意味だが、あけすけに言うと「無い」。経典は基本的に以下の3つに分かれている
・序分:導入、その経が説かれた場面や背景、聴衆などについて
・正宗分(しょうじゅうぶん):本論部分
・流通分(るづうぶん):まとめ、経典の優れた点や、それを広めていくべきと説く
前述したものは冒頭部分ということで上記の序分にあたる。しかし、この序分の内容は「この経典はいつ、どこで説かれ、誰が聞いていた」ということなので、さしたる意味はないのである。細かく見ると
・如是我聞
「我かくのごとく聞きしあり」とはじまる。世界史で習うことだが、釈尊は自らの教えを書物にして残していない。没後に何度か結集(けつじゅう)というものが行われ、弟子などがかつての説法をまとめて後世に残している。そのため、「私はこのように聞いた」というような出だしなのである。
この『阿弥陀経』も舎利弗(Śāriputra、シャーリプトラ、釈尊の十大弟子の中で智慧第一とされた)に説いたもののため、この先随所に「舎利弗よ」と語りかける部分がある。
・一時仏在 舎衛国 祇樹給孤独園
これは説かれた場所のことだ。前回触れた「舎衛国の祇樹給孤独園」つまり、釈尊が祇園精舎にいたときである。
・與大比丘衆~
「1250人の高弟たちとともにおり、彼らは皆最高の悟りを開き、世の人々から尊敬を受けていた。主立った人は長老の舎利弗…」以下、正宗分に入るまでその聴衆の羅列である。
この前フリに続く正宗分では、阿弥陀如来の極楽浄土はいかに素晴らしいところであるかを説いている。
浄土宗や浄土真宗では葬儀の際にもこれを唱えるが、亡くなった方にとってはこれから生まれる場所が非常に良いところということで、安心できる内容といえるだろう。なお、浄土教系の宗派の他、密教系の天台宗でも唱えることがある。
『阿弥陀経』の別名は「小経」ともいい、先ほどの「浄土三部経」の中では唯一通しで読まれることがあり、丸暗記も可能なものだ。「大経」こと『無量寿経』と「観経」こと『観無量寿経』は通しで読むと1時間でも足りないため、一部の重要箇所がピックアップされて読まれることがある。
読む時間としては、私は葬儀の際はやや巻きで(出棺やお別れの時間の確保があるので、ややペースを速めたり、一部をカットすることがある)15分程度、先ほど個人的に理想のゆったりめなペースで読んだところ約25分だった。
修行のシーンでは滝に打たれている際の意識確認という意味合いとされていたが、そんな状況ではゆったりペースで唱えているとは考えにくい。また、先輩隊員の村田が「一刻(いっこく)滝に打たれ続けられるようになったから~」とある。一刻は現在の約30分とのことなので、おそらく2周でちょうどいいタイミングといったところだろう。このあたり、チョイスが絶妙だ。
ちなみに、浄土宗の総本山知恩院では毎朝の晨朝法要でこの『阿弥陀経』を唱えている。私も参加したことはあるが、超スピードだ。計ったことはないがおそらく10分程度だろう。このペースなら3セットで1刻だ。宿坊の和順会館にはこれに参加し、先祖供養をしてくれるプランもあるので興味がある方は一泊してみてはいかがだろうか。
(後編に続く)
後編の公開は7月5日16時です。
ジャンル | エンタメ・カルチャー |
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掲載日時 | 2020/7/4 16:00 |
学習院大学文学部史学科卒
大正大学大学院仏教学研究科浄土学専攻修士課程修了
高校・大学は剣道部、前職は中学・高校の社会科教員。クイズ作家としてはクイズ研究会やサークル所属経験のない異色の経歴。クイズ番組は好きだったが、プレイヤーとしての経験はアーケードゲームのみ。
僧侶としても、仏教系大学に大学院のみ在籍という極少数派。
有限会社セブンワンダーズ入社後は僧侶とクイズ作家の兼業で活動。法話にもクイズ作成で得た知識や要素を取り入れ、独自性のあるものを展開しているほか、寺院での「仏教クイズ」も企画している。
好きなジャンルは仏教、世界史、サッカー。
クイズに関するニュースやコラムの他、
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