プロ野球クイズ王・尾林衡史の「野球本書評」
『幸運な男』(長谷川晶一著 インプレス)
プロ野球クイズ王・尾林の野球本書評、第15回はスポーツライターの長谷川晶一さんの著書『幸運な男』(インプレス)です。
この本のサブタイトルは「伊藤智仁 悲運のエースの幸運な人生」であり、2023年現在は東京ヤクルトスワローズで一軍投手コーチを務める伊藤智仁さんのプロ野球人生にスポットをあてた作品です。
今回は書籍の感想に入る前に私の伊藤智仁投手に思うことを語ります。
伊藤智仁投手は1992年ドラフト1位でヤクルトに入団すると、翌93年に14試合に登板して7勝2敗、そして特筆すべきは109イニング投げて防御率0.91という、度肝を抜く内容でした。
私は当時大学2年生で、お金に余裕があるわけではなかったので、神宮球場には頻繁にいけるわけではなかったですが、伊藤智仁投手を初めて生で観たときの衝撃は今でも強烈に覚えています。
強打者たちがバタバタと三振するシーンは胸のすくものであったと同時に、なぜこんなにも打てないのか不思議に思ったものですが、YouTube動画を見ていると伊藤智仁投手の代名詞ともいえる高速スライダーは、途中までストレートと同じ軌道で、手元で鋭く曲がるのがよくわかります。
また、適度に荒れ球のため打者にとっては的が絞りづらかったと感じます。
しかし、1993年7月4日、完投勝利をあげた巨人戦で肩を痛めてからは常に故障との戦いでした。
ただ、多くのメディアで伊藤投手のことを「3ヶ月で消えた投手」と紹介するケースがありますが、それは断じて違うといえます。
その後、リハビリを経て1996年に一軍復帰を果たすと97年はリリーフを務め19セーブでカムバック賞を獲得するとともにリーグ優勝と日本一に貢献、98年~2000年はふたたび先発ローテーションを務めており、特に98年はキャリア唯一の規定投球回到達も果たしています。
しかし、2001年にふたたび肩を痛めると復帰は果たせず、2003年限りで現役を引退しました。
伊藤投手は肩の可動域がケタ外れに広く、それゆえにストレート、変化球共に普通の人では投げられないボールが投げられる一方で、肩の負担が大きい投手でした。
そんな伊藤智仁投手はどうしても「悲運の投手」というイメージがついてまわりますが、著者の長谷川さんが伊藤智仁さんに密着取材をつづけてつけたタイトルが「幸運な男」でした。
長谷川さんの著書でいつも感心するのが「取材の内容の掘り下げ方」と「取材相手の本心を聞き出す力」です。
本書では、プロ野球の現役時代のみならず、「高速スライダーができるまで」という章で中学生、高校生、社会人の頃を聞き出し、更に1991年のドラフト対象で、本来はプロを志望したものの1年会社に残留してのぞんだバルセロナオリンピックの心境などを克明に聞き出したのは圧巻でした。
また、最後はナックルボーラーとしての復活を目指した心境を克明につづった内容は、そのことを知らなかった私にとっては意外な内容でした。
そして、本書で強烈に印象に残っている一言が「悲運であっても、決して不幸ではない」というものです。
長谷川さんが伊藤智仁さんに密着取材を重ねていたのは2017年の頃で、伊藤さんは現役引退した2004年からこの年限りで退団するまで、14年間ヤクルトの投手コーチを務めていました。
おそらく現役当時は投げている期間よりも故障との闘いおよび、リハビリに明け暮れる期間の方が長く、つらく苦しいものだったと思いますが、その時の経験がコーチになってから生きていると思われます。
さらに出版後の2021年にヤクルトの一軍投手コーチに復帰すると、同年は日本一、翌年もリーグ優勝とまさに「幸運な男」の面目躍如(もちろん、投手コーチとしての手腕もありますが)といえる結果でした
クイズにまいります。
テーマは「伊藤智仁」です。
【問題】
1 1992年ドラフトで伊藤智仁を指名した3球団は、ヤクルト、広島とどこでしょう?
2 1993年4月20日のプロ初登板で初奪三振を記録した阪神の選手で、後にチームメイトとなったのは誰でしょう?
3 1993年6月9日の巨人戦で16奪三振を記録するも篠塚和典にサヨナラ本塁打を打たれた球場はどこだったでしょう?
4 2018年に1シーズン監督を務めたBCリーグのチームはどこでしょう?
5 ヤクルト一軍投手コーチに復帰した2021年、楽天を自由契約となって移籍した近藤弘樹投手に習得をすすめた球種は何でしょう?
【正解】
1 オリックスブルーウェーブ…最後にクジを引き、野村監督は他の2球団が外れたのを確認してからクジを開きました。
2 トーマス・オマリー…初先発で7回2失点で勝利投手、さらに初打席初安打を記録しています。
3 石川県野球場…この時の伊藤投手、篠塚選手の心境、および終了後に古田選手が野村監督から厳しく叱責された内容は本書で詳しく書かれています。
4 富山サンダーバーズ・・・2018年ドラフトでは湯浅京己(阪神)と海老原一佳(日本ハム育成)が指名されています。
5 シュート…伊藤智仁さんは前年まで楽天の投手コーチを務めており、ヤクルト復帰が決まった際に近藤投手の獲得を進言したといわれます。
ジャンル | プロ野球クイズ王・尾林衡史の「野球本書評」 |
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掲載日時 | 2023/9/11 16:00 |
タグ | 尾林衡史のBBB 伊藤智仁 |
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担当ジャンル:スポーツ
1973年生まれ 福岡県出身
職業 クイズ作家 株式会社キュービック所属
物心ついたころから40年来の東京ヤクルトスワローズのファン。
年間の観戦数は30試合から40試合ほど。
仕事の「クイズ」と趣味の「野球」を組み合わせた「野球クイズ」をライフワークとし
プレーヤー・イベンターともに「野球クイズ」の第一人者を自負
主な実績
①プレーヤー
『全日本プロ野球クイズ王決定戦』(2013年6月)優勝
『プロ野球マニア王決定戦』(2019年3月)優勝
②イベンター
『プロ野球12球団ファンクイズ王決定戦』(2019年5月~2020年1月)
(全12球団+各回の優勝者で日本一を争う「日本シリーズ」の全13回)開催
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