プロ野球クイズ王・尾林衡史の「野球本書評」
『名将前夜』(長谷川晶一著 角川書店)
プロ野球クイズ王・尾林の野球本書評、第13回は、大のヤクルトスワローズファンとして知られる長谷川晶一さんの著書『名将前夜』です。
この作品は、野村克也監督がヤクルト就任前に自身が息子の克則氏のために立ち上げた中学野球チーム・港東(みなとひがし)ムースの監督について取り上げた内容です。
野村克也監督は1980年に西武で現役を引退すると解説者・評論家として活動していましたが、1988年に息子の克則氏が在籍していた野球チームが監督と保護者とのトラブルにより空中分解すると息子たちのために港東ムースを立ち上げて監督に就任します。
チーム名の「ムース」とはヘラジカのことで、1960年に日米野球で来日したメジャーリーガーのウィリー・メイズが「のそっとしているがいろいろな動きによく反応している」様子から名づけた野村監督のニックネームにちなみます。
港東ムースの監督に就任すると野村監督は、あらゆるところに頭を下げ回り、当時解説を務めていたテレビ朝日関係者から不要になった野球用具を譲ってもらい、後に監督に就任するヤクルトの本拠地・明治神宮球場からは室内練習場を貸してもらい、そして現役時代は「打倒巨人」を掲げていた読売ジャイアンツにも頭を下げて当時の二軍の本拠地だった多摩川グラウンドを練習場として使わせてもらったと語っています。
このエピソードについて野村監督は「オレがジャイアンツに頭を下げるということが、どういう意味を持つことなのか、お前らにはわからないだろうな…」(本書33ページ)と語っています。
後にヤクルト監督時代に「打倒長嶋巨人」を常に言い続けていた野村監督の心境が凝縮された言葉に感じます。
さて、長谷川さんの著書に対して私が常に感心するのが「時空をその時のみの平面でとらえるのではなく、立体的にとらえて描き上げる」能力です。
本書でいうと、野村監督が港東ムースに所属した選手に当初は捕手を命ずるも、俊足と強肩を生かして外野手に転向させたエピソードがありますが、これを後にヤクルト監督として捕手からセカンド→センターに転向させて不動のリードオフマンとして活躍した飯田哲也選手の原点と語り、中学生にも頭を使ってプレーすること(一例をあげると「投手は打たれた打者に対し、次の打席であえて打たれたボールを投げる」、これは打たれたボールは投げてこないだろうという打者心理をついたものです)、などを後にヤクルト監督時に就任した際に掲げた「シンキングベースボール」になぞらえるなど、単に港東ムースの監督としてのエピソードで終わらず、その後のプロ野球監督としての体験になぞらえて記述するのは、子どものころからのヤクルトスワローズファンで、ライターになってからは長年取材を続けている長谷川さんならではと思いました。
また、この作品は8歳で父親を亡くし、病気がちの母親との母子家庭で過ごした港東ムースの野球少年にスポットをあてていますが、この少年、まさに3歳の時に戦争で父を亡くし、極貧の家庭で育った野村監督と同じ境遇だったと思います。この少年、高校まで野球を続け、卒業後は鉄道会社で勤務しているとのことですが、この方に丁寧に取材している様子も感じました。
野村監督は野球のみならず、人として一人前になる人間教育を大切にしていましたが、この少年のエピソードをみると、まさに中学生に対しても同じように人としての道を教えていたことがよくわかります。
野村監督は港東ムース創設の2年後にヤクルト監督に就任し、実質的にチームを離れますが、後にヤクルトで4度のリーグ優勝、3度の日本一になった名将としての原点はまさに中学生たちを指導した2年間に凝縮されていたと感じました。
クイズにまいります。
テーマは「野村克也・克則親子」です。
【問題】
1 野村克則選手が明治大学時代の1993年秋のシーズンでベストナインに選出されたポジションは、捕手ではなくどこだったでしょう?
2 1994年、野村克也ヤクルト監督が明治大学の克則の応援に行った試合で本塁打を打った対戦相手の法政大学の選手で、それを見た野村監督がスカウトに獲得を進言し、同年のドラフトで指名した選手は誰でしょう?
3 1995年ドラフトで野村克則選手がドラフト3位でヤクルトに指名された時のヤクルトの1位指名選手は、後に楽天で監督・コーチの間柄となった誰でしょう?
4 野村克則選手がヤクルト時代(登録名はカツノリ)の1996年から99年につけていた背番号は何番でしょう?
5 野村克則選手の引退試合となった2006年10月1日のロッテ戦で先発投手を務めた、堀越高校の後輩にあたる投手は誰でしょう?
【正解】
1 一塁手…捕手にコンバートされたのは3年時の1994年のことでした。
2 稲葉篤紀…稲葉選手は大学時代リーグ戦での通算本塁打は6本にとどまりますが、そのうちの1本を野村監督の前で打ったことがヤクルト入団のきっかけとなりました。
3 三木肇…2020年シーズンの楽天は監督が三木氏で、克則氏が一軍作戦コーチでした。
4 33番…巨人の長嶋茂雄監督が当時つけていた背番号にちなむとされます。
5 岩隈久志…2005年~06年は同僚、その後2007年~09年はコーチと選手の間柄でした。
ジャンル | プロ野球クイズ王・尾林衡史の「野球本書評」 |
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掲載日時 | 2023/8/28 16:00 |
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担当ジャンル:スポーツ
1973年生まれ 福岡県出身
職業 クイズ作家 株式会社キュービック所属
物心ついたころから40年来の東京ヤクルトスワローズのファン。
年間の観戦数は30試合から40試合ほど。
仕事の「クイズ」と趣味の「野球」を組み合わせた「野球クイズ」をライフワークとし
プレーヤー・イベンターともに「野球クイズ」の第一人者を自負
主な実績
①プレーヤー
『全日本プロ野球クイズ王決定戦』(2013年6月)優勝
『プロ野球マニア王決定戦』(2019年3月)優勝
②イベンター
『プロ野球12球団ファンクイズ王決定戦』(2019年5月~2020年1月)
(全12球団+各回の優勝者で日本一を争う「日本シリーズ」の全13回)開催
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