仏教の「トイレの神様」とは?
一昔前のヒット曲のようなタイトルだが、少々音楽系の作問の機会があり、それに伴い思い出した話が今回のテーマだ。
全く関係ないが、あいみょんが『二人だけの国』という曲で「ナンマイダ」と歌詞に入れていたので実家はおそらく浄土真宗などというネタを思いついたのだが、確認しようがない上に、『どうせ死ぬなら』では「なむあみだぶつを唱えないで」「卒塔婆に刻んで」(浄土真宗は卒塔婆を用いない)とあったので、おそらく語感の問題という結論に至った。
本題のほうだが、仏教でトイレの神様とされるのは烏枢沙摩明王(うすさまみょうおう)だ。以前、仏像の見分け方の回(リンク)で触れたが、如来、菩薩の下にくる明王のカテゴリに属する。
古代インドではウッチュシュマ(Ucchuṣma)といい、炎の神アグニが仏教に取り込まれたものとされる。そのため、後背には炎があることが多く、その炎の勢いで髪の毛は逆立っている。また、以前触れたように明王のため、美人ではなく非常に険しい顔をしているのも特徴だ。
身体については複数のパターンがあり、手が阿修羅像のように6本あり、それぞれに独鈷などを持つものから2本のものまである。
足は左足を上げて今にも何か踏みつぶすか四股でも踏みそうな力強いものが多い。足元には猪頭天(いとうてん)というイノシシの頭を持つ神がともに置かれていることもあり、これは明王が態度の悪い鬼神を懲らしめているシーンとされる。
ここまで見ると何かと攻撃的なイメージが強いのだが、なぜトイレの神様とされるのか。それは、不浄を炎で焼き尽くすとされるためだ。
そもそも、烏枢沙摩明王が住むとされるのは「火生三昧(かしょうざんまい)」という名前の通りの炎の世界で、仏の世界と俗世の間にあるとされるところだ。そこで常に人間の煩悩などを焼き払い続け、仏の世界に入ってこないようにしている、いわば門番である。
そのため、我々の世界では衛生的ではなかったり、かつては怨霊が通るなどとされたトイレを清めるとされるようになった。
他にもご利益としては、男児の誕生が挙げられる。現代ではあまり良い話とは言い難いのだが、胎内にいる胎児を男児に変えるともいわれる。そのため、跡取りの必要な武士などには人気が高かったようだ。逆に、女児が欲しい方は、参拝を避けたほうがいいかも知れない。
もう一点、動物供養にもよく用いられる。放生会(魚や鳥を放ち命を救うという、不殺生戒に基づく法要)などに際して祀られることが多いのだが、かつて動物は畜生、つまりは不浄の存在とされていたためだ。
上の点含め、何かと現代の価値観には合わないところもあるのだが、我々供養する側は皆おそらくそのようなことを思ってはいないので、そのあたりは仏教の柔軟性を期待してもらいたいところだ。
この烏枢沙摩明王だが、天台宗では五大明王にも数えられるということで大寺院でなくとも見られるが、有名どころとしては静岡県袋井市にある曹洞宗の可睡斎(かすいさい)のものが挙げられる。
ここにはかつて日本一の大東司(だいとうす、トイレのこと)とも称された大きな水洗トイレがある。完成したのは1937年で、当時は水洗トイレ自体が珍しく、これを目的とした見学者も多く訪れたという。
そして、その中央部には仏師の高村晴雲作の巨大な烏枢沙摩明王像があり、日本一の大きさともいわれる。
ここでは明王のお札も販売されているので、何かと欲望に負けてしまいがちで煩悩に苦しむ方は購入してトイレに祀るといいかも知れない。
ジャンル | 社会 |
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掲載日時 | 2021/8/18 16:00 |
学習院大学文学部史学科卒
大正大学大学院仏教学研究科浄土学専攻修士課程修了
高校・大学は剣道部、前職は中学・高校の社会科教員。クイズ作家としてはクイズ研究会やサークル所属経験のない異色の経歴。クイズ番組は好きだったが、プレイヤーとしての経験はアーケードゲームのみ。
僧侶としても、仏教系大学に大学院のみ在籍という極少数派。
有限会社セブンワンダーズ入社後は僧侶とクイズ作家の兼業で活動。法話にもクイズ作成で得た知識や要素を取り入れ、独自性のあるものを展開しているほか、寺院での「仏教クイズ」も企画している。
好きなジャンルは仏教、世界史、サッカー。
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