仏教用語を冠するバンドの中で、世界一売れたのは何？

数年前の話になるが、英語版の浄土宗のお勤め（お経）というものがYouTubeにあると教えてもらった。また、過去に友人が法然上人の御法語をフランス語訳しているという話を聞いたこともある。

浄土真宗の僧侶・大來尚順上人の『英語でブッダ』（扶桑社）のような本もあり、検索してみると、様々な仏教用語が英訳されており、興味深い。

英訳も1つではなく、「輪廻転生」を例に取ると、“a never-ending cycle of life and death”のような意味から訳したものや、サンスクリット語からきた“samsara（サンサーラ）”など、複数のパターンが見られる。前者は布教などのために意訳したものとも推測されるが、こうして見ると理解がしやすく、逆に日本人に向けても有益ではないかとも思う。

このように、仏教用語は日本語・中国語・サンスクリット語のみに限らないため、英語圏をはじめ、世界のどこのバンドが名前に使っていてもおかしいことではない。

しかし、信者数には圧倒的な違いがある。仏教は世界三大宗教とされてはいるが、信者数は1位のキリスト教、2位のイスラム教、さらに3位のヒンドゥー教の下であり、儒教・道教など中国の伝統的宗教とほぼ同数である。

また、仏教信者が多い国は東・東南アジアなので、あまり世界的なセールスを達成して名前を残すということに縁があるとはいいがたい地域である。

CDのセールスを調べていると、世界一売れたアルバムは故・マイケル・ジャクソンの『スリラー』だが、以下を見ても英語圏の名盤がずらりと並ぶ。

そこから考えて英語圏のバンドを思い浮かべていただきたいが、そもそも仏教用語のついたバンドがパッと思いつく方は少ないのではないだろうか。

私が思いついた範囲でそれらしいものとしてはJudas Priest、Grateful Dead、Stone Temple Pilotsなどが挙げられる。

priestはカトリックの司祭やその他の僧侶全般のことを指すため、“buddhist priest”というなら別だが仏教用語とはいいがたい。deadは四苦のうちのひとつの死ではあるが、これを含めるともはや何でもありになってしまう。Templeは仏教寺院も指すが、キリスト教以外の寺院全般を指すため、これも仏教用語というには微妙なところだろう。

それでは何が答えなのかというと、アルバム“Nevermind”だけで3500万枚、全てのCDでは全世界で5000万枚以上の売上げを残したバンド、故・カート・コバーンが率いたNirvanaである。

Nirvanaとは「涅槃（ねはん）」という意味の仏教用語である。このニルヴァーナという言葉は、元々はサンスクリット語で「吹き消す」という意味で、煩悩の火を消して悟りの境地に入ることを意味する。

カート・コバーンはパンク・ロックのような名前ではなく、美しい名前にしたかったという理由でバンド名を決めたというが、後に仏教徒となっている。知っての通り、彼は1994年4月5日に亡くなっているが、葬儀は僧侶による仏教式のものだったという。

ちなみに、彼の妻であったコートニーも仏教徒のようで、しばしば仏教やその信仰に関するコメントを出している。最近では昨年のrockin’on.comの記事で目にした。

（https://rockinon.com/news/detail/186902）

余談ではあるが、近隣の寺院の青年会でよく顔を合わす方が沙門（しゃもん）というB-pop（仏教ポップ）バンドで活動している。沙門とは仏教の修行僧を意味する。

YouTube（https://www.youtube.com/channel/UCCZm7X9tqCJCeoOIZN0psCQ）で曲の公開の他にも仏教用語の解説なども行っており、明確に仏教名を冠するバンドだ。豊島邦博上人には、ぜひこの記事の内容を覆す活躍を期待したいところである。