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中世の教会建築で、古代神殿風の円柱装飾はどう受け継がれた?

パルテノン神殿(ドーリア式)

古代ギリシャの神殿などに使われた円柱には、出現した時代や装飾のタイプによって大きく分けて3種類の様式があることで有名です。

少し詳しくいうと、一番古く装飾もほとんどないタイプの「ドーリア(ドリス)式」と、ドーリア式に比べて若干新しく柱頭に渦巻きの装飾のある「イオニア式」、そしてこれら2つの様式よりも約100年ほど新しいといわれる、「アカンサス」というキツネノマゴ科の植物をモチーフにした柱頭装飾で知られる華やかな「コリント式」です。

これらの3つの様式は高校の歴史の教科書にも取り上げられたので、名前だけでも覚えておいでの方も少なくないでしょう。しかしこれは余り日本では知られていないことですが、いわゆる「古代建築」に使われた円柱の様式はローマ時代に入っても工夫が更に凝らされ、コリント式の葉飾りの上にイオニア式の渦巻き文様を乗せた「コンポジット式」という様式が誕生しています。更には「トスカナ式」というドーリア式に似ているが柱に溝がないタイプの様式も生まれ、続投のドーリア・イオニア・コリントの3様式も含めて都合5様式の円柱がローマ帝国時代には作られていました(なおドーリア式に似た「ローマドリス式」を加えて6様式とする数え方もあります)。

その後キリスト教時代に入ると教会が建てられるようになりましたが、キリスト教の教会は歴史的にみれば異教時代の神殿を利用したものが多く、新しく建てる場合も異教の宗教建築をモデルにすることも多かったので(なお、これは異教からの改宗の抵抗を減らすための面もありました)、そこにあった円柱がそのまま使われたり、新しく建てる場合には古代に廃神殿になっていた神殿をいわば「石材採掘場」として利用するのが一般的だったので、中世初期の教会建築には古代神殿風の円柱は付き物でした。

しかし古代の廃神殿趾が「石材採掘場」として重宝されたとはいえ矢張り数に限りがあり、またヨーロッパのより北部ではローマ風神殿がほとんど作られなかったこともあり、一から新しい教会の建物を建てる必要が出てきました。

そしてこの新しく建てられた教会建築も、ローマの古代建築風の装飾を見よう見まねで取り入れることが流行し後に「ロマネスク」と呼ばれる様式となりますが、このロマネスク様式の柱頭装飾についてクイズです。

ロマネスクの教会建築では、古代神殿の柱頭装飾では使われなかったモチーフが大流行しましたが、それは次のどれでしょう(今回の答えは一つとは限りません)?

 

1,動物(実在の動物及び神話や伝説の怪物)

2,人物(人間の姿の(と判断できる)像)

3,文字

 

・・・正解は、1番の「動物」と2番の「人物」です。

古代神殿では、そこに祀られた神が登場する神話の有名な場面などがレリーフなどとして装飾の題材にされましたが、それらのレリーフは他の部分に配置されるのが一般的であり柱頭装飾にされることはありませんでした(なお古代ギリシャには柱がそのまま女性像である「カリアティード」というものもありましたが、これは柱頭装飾ではないので除外です)。

しかしロマネスクの教会では、聖書物語や聖人伝、その他様々な架空・実在を問わない動物や人間かそれ以外かを問わない人物の像が多く柱頭装飾のモチーフになりました。中には、一見古代神殿風の葉飾りだがよく見ると植物(?)の先端が人物や動物の顔になっているものなどもあり、奇怪でユーモラスな印象です。

こうしたユニークな発展を遂げた柱頭装飾は、その後高くそびえる教会建築で有名なゴシック様式の台頭によって姿を消します。後にルネサンス〜近現代に古代風円柱と柱頭装飾はリバイバルしますが、それらはいわゆる権威の演出として人気であった(し、ある)ため、奇怪さやユーモラスさの目立つロマネスク風の柱頭装飾が取り入れられることは、筆者の知る限りではほとんどありませんでした。

 

 

<参考文献>

「西欧建築における柱について」

http://deo.o.oo7.jp/construction/column/column.html

尾形希和子『教会の怪物たち ロマネスクの図像学』講談社選書メチエ、2013

金沢百枝『ロマネスク美術革命』新潮選書、2015

 

 

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準デジタル・アーキビスト資格所持者
ペットセーバーベーシック・アドバンス資格所持者
せっぱつまりこ

法政大学大学院国際日本学インスティテュート修士課程修了(学術修士の学位有り)

10代前半から美術史に、1617歳頃から葬儀・埋葬史に強い関心を持ち、紆余曲折を経て現在では特定分野に特化したクイズ原案作者を名乗る。

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