パリのノートルダム大聖堂の怪物像は、実は昔はなかった?
ヨーロッパの中世に建てられた(美術史用語でいえば、ロマネスク〜ゴシック様式の)キリスト教の教会の建物には、しばしば様々な姿の怪物の像の装飾があります。例えば植物の葉のような髪や髭を生やし、口から植物の蔓を生やした怪人(いわゆる「グリーンマン」)や二本の尾を持つ人魚、その他様々な動物の特徴を集めた姿の怪物などです。
これらの怪物像はしばしば「悪魔の像」ともよばれ、そうした悪魔を屈服させたキリスト教の神の徳を讃えるためのものだともよくいわれますが、一方では異教世界の怪物(実際、これらの怪物像は明らかに古代ギリシャやゲルマン、ケルトなどの異教の神話に登場する怪物にルーツがあるものが多いです)も救済してしまうキリスト教の神の徳を賛美するためであるとも、はたまた実は逆に魔除けであるともいわれており、そうした点にもキリスト教芸術の多層性がうかがえます。
ところで、先に少々言及した「様々な動物の特徴を集めた姿の怪物の像」ですが、中でも特に有名なのが、日本でも中学校や高校の歴史の教科書に登場することも多かったフランスのパリのノートルダム大聖堂の「キメラ(フランス語発音ではシメール)像」です。
「キメラ」とは、そもそも古代ギリシャ神話に登場する二つの頭(ライオンとヤギ)と蛇の尾を持つ怪物(ギリシャ語発音はキマイラ)で、転じて異なる様々な動物の特徴を集めた姿の怪物という普通名詞的な意味にもなり、更には教会やその他の建物の入口に設置された雨どいの機能のない怪物像の意味にもなりました(なお、こうした中世ヨーロッパの教会の怪物像はしばしば「ガーゴイル」とよばれますが、正確には「ガーゴイル」は単に「雨どい」の意味であり、雨どい機能を持つ怪物像も多い(口の部分から水を吐くタイプが非常に多いです)ことから混同されてしまったようです)。
このノートルダム大聖堂のキメラ像は2019年の大聖堂火災では焼失を逃れ無事でしたが、ここでクイズです。ノートルダム大聖堂のキメラ像は、実は新しい時代に作られ中世にはなかったというのは、マルでしょうかバツでしょうか?
・・・正解は、「マル」です。パリのノートルダム大聖堂は1857年に大改修されていますが、この大改修の際に総合責任者的な役割を務めた建築家のヴィオレ・ル・デュックがこのキメラ像を設置していたのでした。ですので、「実はこれは中世の作品でなく、19世紀半ばの大改修の際に新しく作られた像です」などという断り書きなしに「中世ヨーロッパの教会建築の装飾」として扱ってしまうのは、正確には間違いになってしまうので注意が必要です。
<参考文献>
尾形希和子『教会の怪物たち ロマネスクの図像学』講談社選書メチエ、2013
オード・ゴエミンヌ、ダコスタ吉村花子訳、松村一男監修『世界一よくわかる! ギリシャ神話キャラクター事典』グラフィック社、2020
ジャンル | 歴史 |
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掲載日時 | 2021/6/12 16:00 |
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