阿修羅と帝釈天の勝負を分けた生き物とは何?
寅さんの柴又でもおなじみの帝釈天と、興福寺の国宝でもよく知られる阿修羅は因縁の関係にある。
別のところでざっくりとだが触れているのだが、阿修羅の娘の舎脂(しゃし)を帝釈天が連れ去ったことが原因で、阿修羅は帝釈天に何度も戦いを挑むこととなる。
阿修羅は正義の神であり、しばしば力の神である帝釈天をひるませることすらあるものの、結局は歯が立たず、戦った年数は数億年とされ、しかも全て敗れている。Jリーグ初年度のレッズやTBS時代のベイスターズも真っ青な勝率である。
しかし、何度か阿修羅が優勢になったこともある。今回はそのうちの一回をクローズアップしてみたい。
その記述は『今昔物語』の一巻第三十の「帝釈与修羅合戦語」に見られる。読んだ方はよく知っていると思うが、この本には因果応報譚のような仏教的説話がよく見られる。
これによると、あるとき帝釈天は阿修羅の軍勢に押されて退却を始めるが、その途中でアリの行列にぶつかってしまう。
すると帝釈天は「ここで大量のアリを踏みつぶしてしまうと、私は逃げおおせても殺生の罪を犯してしまう。」と立ち止まる。
一方、これを追撃していた阿修羅だが、立ち止まった帝釈天を見て増援が来たのではないかと疑いはじめ、逆に退いてしまう。
そして、ここから反転した帝釈天は阿修羅の軍勢を破り、数え切れない勝利のうちのひとつを得ることとなる。『三国志』でもおなじみの空城の計が勝手に成立したようなものだ。
この話の結びは
「『戒を持つは、三悪道に落ちず、急難を遁るる道也』と仏の説き給ふ也けりとなむ、語り伝へたるとや。」
「『戒律を守ることは、地獄・餓鬼・畜生の三悪道に落ちないだけでなく、急難を逃れる道となる』と釈尊が説いたと語り伝えられている。」
となっている。
勝負事では冷静なほうが有利なのはよくいわれることだ。窮地にあっても足下のアリに気づく、仏法を守ろうとするほどの帝釈天に勝つことができないのは、他の面で見ても当然といえるかも知れない。
ジャンル | 科学 |
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掲載日時 | 2021/3/21 16:00 |
学習院大学文学部史学科卒
大正大学大学院仏教学研究科浄土学専攻修士課程修了
高校・大学は剣道部、前職は中学・高校の社会科教員。クイズ作家としてはクイズ研究会やサークル所属経験のない異色の経歴。クイズ番組は好きだったが、プレイヤーとしての経験はアーケードゲームのみ。
僧侶としても、仏教系大学に大学院のみ在籍という極少数派。
有限会社セブンワンダーズ入社後は僧侶とクイズ作家の兼業で活動。法話にもクイズ作成で得た知識や要素を取り入れ、独自性のあるものを展開しているほか、寺院での「仏教クイズ」も企画している。
好きなジャンルは仏教、世界史、サッカー。
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