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『堤中納言物語』に出てくる「やばい」お姫さまは何がお好き?

『堤中納言物語』は、平安時代の後期以降に成立した、10編の短編が収められている短編集です。

堤中納言という人物は出てこないのに、なぜ『堤中納言物語』なのか?も含めて、成立年代、作者、内容に謎が多く残されている古典文学です。

カラスアゲハ

今回取り上げる『堤中納言物語』の短編は、ずばり『虫めづる姫君』。

タイトルのクイズの答えは、「虫」です。

 

平安時代の一般的な女性像は「平安時代は女が男を養う時代だった?」を参照していただければと思います。

しかし、主人公の姫君は、身分のある家の娘だったのに、変わり者。

いかに変わっているかは、物語の序章でたっぷり語られます。

 

・花や蝶をめでる姫君が多いのに、この姫君は、とにかく虫を集めていて、一日中毛虫を手の上に這わせて遊んでいる。羽化の様子にも興味しんしん。

 

・「化粧をするのは真実の姿を隠すことになるのでよくない」と主張。

年ごろになると、眉を全部抜き、まゆずみで眉をかくのですが、面倒だからと言ってほったらかしにし、毛虫のような眉と言われる始末。お歯黒も「汚い」と一蹴。

 

・親に外聞が悪いからやめてくれ、と言われても、

「観察、探求が物事の真実の姿を見極めるものである。世間の人が好きな蝶はもともとこの毛虫なのに。私たちが着ている美しい服も、糸は蚕が作っているのに。そんなこともわからない幼稚な人に何を言われても気にならないわ」と至極まっとうに反論。

 

・虫だらけの空間で過すのが苦痛でしょうがない女房(=姫君のお世話係)に陰口を言われる。

 

・女房は怖がってばかりで話にならないので、虫を取ってもらうために男童(少年)を雇う。

しかも、その男童にケラ男とか、いなごまろとか変な名前をつける。

(ケラ男って…ネーミングセンスは昔も変わらないのかもしれませんね)

 

ここで、姫君に一つ、事件が起こります。

なんと、ある身分の高いお方が、姫君のうわさをききつけ、プレゼントとともに和歌を送ってきたのです。しかも、そのプレゼントの中身は…本物そっくりのおもちゃのヘビ。

この時代、和歌を詠みかけられると、返事をするのが一般的で、本来であれば、異性に自分の魅力を猛アピールするチャンス。返歌の内容だけでなく、紙の種類、文字を書く配置まで凝るのがふつうなのですが…。

なんと、この姫君は、催促されるまで書こうとせず、女房に催促されてやっと、しぶしぶメモ用紙にぶっきらぼうな返事を書きました。

 

しかし、あろうことかこのご令息、「変わった姫君だなあ…一目見てみたい」とますます興味を持ち始めます。

 

そして外で虫を眺めている姫君を見て、「普通に化粧をしたらかわいいだろうになあ…」とのんきな感想を述べています。

 

その後、またこの男に和歌を詠みかけられますが、姫君が興味を示さないので、

女房が代わりに返歌をする…というところで急に「二の巻にあるべし(二巻に続く)」と終わります。

 

この二巻は『堤中納言物語』の中には収録されておらず、どこに続いているのかも不明のままです。

 

謎が多い物語ですが、結局主題はなんなのか?も話題です。

女だけど、男みたいに理屈っぽくても自分の意見・信条を押し通せるってかっこいいよね、という憧れで書かれたのか?

単純に風刺として、こんな女子っていやだよね、というつもりで書かれたのか?

(現代だと大バッシングですね)

 

今の状況では証拠がなく、作者の意図は分かりませんが、個人的には前者だったらいいな、と思います。

現代でもまだ「男だから、女だから」というフレーズが残っています。

女というだけで自由のない閉鎖的な生活を強いられていた当時の人が、物語の中だけでも…と、この物語を書いたのならば、そこに、現代にも通じる文学の意義が見いだせる気がします。

 

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一介の予備校国語講師
ことのは

大阪府出身・在住。
同志社大学文学部国文学科卒業。
現在は予備校で(比較的)新人講師として勤務。
担当ジャンルは【古典文学】

授業では、本編よりも脱線話の方がウケて悲しい反面、過去の自分もそうだったので生徒を責められません。小ネタを収集する日々です。

基本どんなジャンルでも興味あり!
でも、結局言葉(=ことのは)のもつ魅力から逃れられずここまで来てしまいました。
尊敬する人は中2のときからロザンの宇治原さん。好きなことは、得意ジャンルが全く違う同居人とクイズ番組を見ながらやいやい言うこと。

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