春から夏にかけてある「施餓鬼」とは何に由来するもの?
早いところでは春彼岸が終わって間もない4月頭には、もう表題の「施餓鬼(せがき)」の案内が菩提寺から届くところもあるだろう。
中には「盆施餓鬼」として、夏場に行っている寺院もあるようだ。その場合はお盆に近い7月から8月にかけて厳修される。
毎年参加している方、幼少期に何となく連れられていった方、行ったことはないが塔婆だけは出している方など様々とは思うが、今回はこれがどのような由来を持つ行事かに触れてみたいと思う。
まず、これの由来となるのは、以前触れた釈尊の十大弟子のひとりで、聞法第一とされたイケメンの阿難尊者である。
『救抜焔口餓鬼陀羅尼経(くばつえんくがきだらにきょう)』によると、ある日修行中の阿難尊者のもとに焔口餓鬼(口から火を吹く餓鬼)が現れ「お前はあと3日で死んで、私のような餓鬼道に堕ちる」という予言をする。そして、全ての餓鬼に飲食物を施し、仏法僧の三宝に供養することがそれから逃れる手段だと聞く。
しかし、無数にいる餓鬼全てに施すほどの食糧を用意するのは不可能なため、阿難尊者は釈尊に助けを求める。そこで、わずかな食べ物でも無量に増やすことが出来る修法を教え、それにより阿難尊者はもとより、あらゆる餓鬼も救われたという。
このように、多くの苦しむ餓鬼に施しを与えることは大変な功徳になるため、それを祖先などに回し向け、供養を行うのが施餓鬼会である。
ここまでの話を見ると、中心となる人物こそ違うものの、釈尊の十大弟子・飲食物の施し・餓鬼およびそこからの救いなど、以前テーマにした盂蘭盆会と似通った部分も多い。そのため、この2つを合わせた「盆施餓鬼」という形も鎌倉時代以降に生まれてきたようだ。
この施餓鬼会の法要だが、読むお経以外にも従来の法要と少し違った形で勤める寺院が多い。
たとえば、通常の法要は当然ながら終始本尊のある正面に向かって拝むが、施餓鬼の場合は堂外などに施しのための供養檀である施餓鬼檀を設置して飲食物などを供え、一定の部分ではそちらへ向かって拝むケースが多い。
また、近隣寺院が相互に法要に参加し、結果10名を超える僧侶による大規模法要になることも一般的だ。大人数での読経は厳かであるとともに迫力もあるし、法要中には雅楽なども演奏され、法事などとは一風変わった雰囲気が味わえることだろう。
特色があるのは法要だけでなく、参加する場合は近隣のちょっと気の利いた店の弁当や軽食といったお斎が出ることも多い。ちなみに、当山では昭和天皇御用達の豆大福で知られる松島屋の赤飯と大福を出している。
法要の前には僧侶による法話のほか、専門家の講演、落語、楽器演奏など、エンターテインメント性の強い催しも行われる。
施餓鬼会は多くの寺院では一年で最大のイベントとなるものなので、それなりに力が入っている。寺の行事なんて、という方も多いだろうが、一度足を運んでみてもらえればと思う次第だ。
ちなみに、餓鬼へ施しを行った阿難尊者は長寿を得たのだが、120歳まで生きて布教を行ったと伝えられる。効果のほどは抜群のようだ。
ジャンル | 生活 |
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掲載日時 | 2020/8/8 16:00 |
学習院大学文学部史学科卒
大正大学大学院仏教学研究科浄土学専攻修士課程修了
高校・大学は剣道部、前職は中学・高校の社会科教員。クイズ作家としてはクイズ研究会やサークル所属経験のない異色の経歴。クイズ番組は好きだったが、プレイヤーとしての経験はアーケードゲームのみ。
僧侶としても、仏教系大学に大学院のみ在籍という極少数派。
有限会社セブンワンダーズ入社後は僧侶とクイズ作家の兼業で活動。法話にもクイズ作成で得た知識や要素を取り入れ、独自性のあるものを展開しているほか、寺院での「仏教クイズ」も企画している。
好きなジャンルは仏教、世界史、サッカー。
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