実は地蔵菩薩と同一である○○とは何?
日本では街角ですら見かけるほど一般的なお地蔵様だが、以前にも少し触れた通り、れっきとした菩薩である。地蔵菩薩はサンスクリット語では“Kṣitigarbha(クシティガルバ)”といい、「クシティ」は大地、「ガルバ」は胎や蔵の意だ。外見は僧のものが多いが、他の菩薩のように冠をかぶるなどのものも見られる。
そして、菩薩ということもあり、たいていの地蔵は非常に穏やかな顔つきをしている。日本では各地で子育てや子宝に御利益があるとされるものが見られるが、ビジュアルだけでそれにも納得がいくところだろう。
『今昔物語』には東大寺の蔵満という僧があの世で地蔵菩薩に会い、助けられて生き返った後は90歳まで生きたという説話が見られる。この延命についても、各地の地蔵菩薩の御利益として見られる。
そもそもの地蔵菩薩の役割は、釈尊が入滅した後から弥勒菩薩が仏となる間の無仏の時代に、衆生を広く救済するものだ。信仰が盛んになったのは平安時代中期頃とされ、末法思想が広まるにつれて信仰もともに広まったという。この救いの範囲は我々が生きている人間界のみならず、餓鬼・畜生・地獄の三悪道を含む六道全てに及ぶ。
「地蔵三経」のひとつに数えられる『地蔵菩薩本願経(じぞうぼさつほんがんきょう)』では、地蔵菩薩は本来仏となれるはずだったものの、菩薩にとどまって衆生を苦しみから救うという誓いや、地蔵菩薩を供養することによる現世利益について説かれている。
また、空也上人作とされる『西院河原地蔵和讃(さいのかわらじぞうわさん)』などでは、賽の河原の子どもたちを救う存在とされており、子どもの守り神としてのイメージも強い。そのことから、上記のような子ども絡みの地蔵菩薩も多く祀られている。
そんな優しいイメージが満載の地蔵菩薩と同一の存在とされるのは、恐ろしい形相や罪人を地獄へ送ることで知られる閻魔大王だ。
顔つきからして正反対といえるような両者だが、地蔵菩薩は閻魔大王の化身とされている。
化身という言葉自体はよく聞くものだが、仏教的な意味合いでいうと仏の三身(法身・報身・応身もしくは化身)のひとつで、世の人々を救うため、人の姿で現れた仏のことを指す。ちなみに他2つを端的にいうと、法身とは真理そのものである仏の本身(言葉では表現できない)、報身は修行の報いとして顕現した身体のことだ。
閻魔大王もイメージ先行で恐ろしい存在と認識されがちだが、いうなれば裁判官なので、悪意の塊というわけではない。『地蔵菩薩発心因縁十王経(じぞうぼうさつほっしんいんねんじゅうおうきょう)』では罪人を裁く方法についても記されているが、苦しむ者には慈悲をかけるべきとし、そのための手段などについても述べている。別に粗探しをして地獄に堕とす口実を作っているわけではない。
閻魔大王の裁判についても有名な話ではあるが、地蔵菩薩はその際の弁護士役を務めるともいう。同一人物のマッチポンプのように思えるが、地蔵菩薩は閻魔帳にある欺瞞の罪に対し、「この者はたいそうなことをいって実現できなかったが、実現するための努力はした」と助け船を出してくれるという。まさに慈悲の面が表れているといえるだろう。
見た目はまったくの正反対だが、ともにしっかりと慈悲の心を持った存在なのである。いくら強面とはいえ、見た目で判断はしにくいというのは、現世でもよくあることだ。
ジャンル | 社会 |
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掲載日時 | 2020/6/11 16:00 |
学習院大学文学部史学科卒
大正大学大学院仏教学研究科浄土学専攻修士課程修了
高校・大学は剣道部、前職は中学・高校の社会科教員。クイズ作家としてはクイズ研究会やサークル所属経験のない異色の経歴。クイズ番組は好きだったが、プレイヤーとしての経験はアーケードゲームのみ。
僧侶としても、仏教系大学に大学院のみ在籍という極少数派。
有限会社セブンワンダーズ入社後は僧侶とクイズ作家の兼業で活動。法話にもクイズ作成で得た知識や要素を取り入れ、独自性のあるものを展開しているほか、寺院での「仏教クイズ」も企画している。
好きなジャンルは仏教、世界史、サッカー。
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